英語を扱った研究では、形態的に複雑な語処理 (認知) の神経基盤が単一であることが理論実験両面で示されている。さらに従来別々の理論 (形態論・統語(辞)論) で扱われてきた語と文・句が、統一的に扱えることが理論方面で示されていた。 本研究では、主に二つの重要な結果が得られた。まず、日本語における語処理の対立する仮説を実験的に解消し(A)、それを踏まえて語と文・句を統一的に扱う理論を元にこれを実験的に実証した(B)。 Aでは、脳波実験によって、英語の研究が日本語でも再現できることを示した。加えて、言語処理で観察される事象関連電位N170の振幅から、日本語・英語のみならず他言語の語処理に共通点があることを指摘し、語処理の神経基盤が言語普遍的であることを示した。これらの成果は、言語理論の脳科学実験で検証した点で重要である。以上の成果を2023年内に出版予定である。また、追加の解析では、語処理と文・句の処理が共通の神経基盤を持つことが示唆された。そのため、当初の予定を変更し、研究対象を語処理より拡大し、語と文・句処理を統一的に扱う理論を実験的に検証する方針に転換した(B)。 Bでは、提示する語の複雑さを変化させた脳波実験を追加で行った。実験の結果、語と文・句処理が共通の神経基盤を持つことが示された。これは、語の作成を司る「形態論」と文・句の作成を司る「統語論」が同じ神経基盤を持つことを脳科学実験で示した最初の成果である。また、この成果は、形態論と統語論を統一する言語理論の一つである分散形態論を支持する結果であり、言語理論で重視されるsimplicityを示唆する重要な知見である。加えて、聴覚刺激と聴覚刺激を用いた実験の比較から言語処理が五感に依らず、その神経基盤が聴覚・視覚で共通であることを示した。また、Aと同様に言語処理の神経基盤が言語間で共通であることがさらに示された。
|