研究課題/領域番号 |
22J12129
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今村 均 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 1次元周期リップルグラフェン / 擬磁場 |
研究実績の概要 |
令和4年度は6R3buffer層上ツイスト転写グラフェンを作製し、構造・電子状態の観察をおこなった。計画ではサンプルの作製及びラマン分光分析、LEED、SPA-LEEDを用いた歪み量の評価を行う予定であり、これらは達成された。ラマン分光分析からはマクロな歪み量が評価され、通常の熱分解法により作製される6R3buffer層上グラフェン(非ツイスト)と比較して歪み量が少ないことが確認された。LEED測定によりグラフェンは6R3buffer層に対して2度相互回転(ツイスト)していることが確認された。ラマン分光分析、LEED測定ができる程度の大面積なサンプルを作製できたことから、計画では令和5年度に行う予定だった東大物性研のARPESにて電子状態の観察を行った。その結果、グラフェンのディラックコーンにはTBGで見られたレプリカバンドやディラックコーンの変調は見られなかった。6R3buffer層は面直方向の構造の揺らぎが大きいことが知られており、TBGの場合と異なり転写グラフェンが十分に密着せず、当初予想していた構造・電子状態の意義ある変調が見られなかったものと考えられる。この結果から、当該の方法では目的のグラフェン2次元モアレ歪み超格子を得られないと判断し、異なる方法でグラフェンに周期歪みを導入することを目指した。グラフェンが1次元周期リップル構造を持つと歪みが1次元的に導入され、擬磁場によりフラットバンドが形成することが計算により予測されている。これは当初の課題と同様、量子多体効果の新しい場となる可能性がある。そこで、4H-SiCのm面が1次元的な1 nm周期の凹凸構造を持っていることに着目し、この上にグラフェンを転写することでグラフェンの1次元周期リップル構造化を目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初令和4年度の課題として設定していたサンプル作製が極めて順調に進み、構造・電子状態の評価までを令和4年度中に行うことができた。しかしながら、予想に反し、ARPESの結果から意図していた擬磁場による電子状態の変調が確認されなかったことから、課題・目標を若干修正した。当初は2次元モアレ歪み超格子の形成を目指していたが、これを1次元歪み構造化に変更した。サンプルは6R3buffer層上へのグラフェン転写と同様の方法で、4H-SiC m面にグラフェンに回転角度をつけて転写することによって行う。4H-SiC m面は表面が1nmの凹凸構造を持つことから、この上にグラフェンを転写すると1nm周期のリップル構造が形成されると予想される。令和4年度中にサンプル作製からラマン分光分析・LEED、SPA-LEEDによる構造・歪み量の評価までを行い、グラフェンに4H-SiC m面の表面構造がグラフェンに反映され、全体に引っ張り歪みがかかっていることが確認された。この結果をまとめ、第83回応用物理学会秋季学術講演会にて発表した。一方、STM/STSを用いた実空間測定・電子状態測定・局所歪みの観察は未だ達成されていないことから、引き続き令和5年度に調査が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
現在の課題として、サンプルの大気暴露に対する不安定さが挙げられる。超高真空中ではグラフェンに4H-SiC m面の表面構造が反映されることがわかっているが、大気暴露後は界面に酸化物層が形成し、グラフェンの超構造が解消される。ラマン分光分析、AFM、ARPES, STM等の測定には大気暴露は避けられない。そこで、今後は4H-SiC m面の大気暴露に対する保護を目的とした表面の水素終端化を目指す。SiC表面のダングリングボンドを水素終端することで未結合手を無くし、大気暴露中に酸素との結合を妨げることが期待される。この表面処理を行った基板に対しグラフェンを転写し、大気安定なリップル構造の形成を目指す。サンプルはAFM、ラマン分光分析により表面トポグラフィー測定、グラフェンの歪み量マッピング測定を行う。これによりグラフェンの表面に対する密着度を評価し、作製法の最適化を行う。最終的には均一で大きな歪みがかかったサンプルを作製し、ARPES, STM/STSによりグラフェンの電子状態を調査する。本年度中期までに結果をまとめ国内学会で発表し、博士論文としてまとめる予定である。
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