研究課題/領域番号 |
22J12727
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
川上 隆 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | ASR / アルカリシリカ反応 / SEM / コンクリートプリズム試験 / 劣化予測 |
研究実績の概要 |
本研究は,アルカリシリカ反応(ASR)に起因するコンクリートの経時的な膨張・損傷を対象に,ペシマム現象を含めた骨材反応性や環境ごとに異なる複雑な劣化のプロセスを実験から特徴づけ,メカニズムベースで長期的な膨張挙動を予測しうる手法について検討している。骨材鉱物の溶解という劣化の出発点を岩種ごとに観察し,アルカリ量・配合や温度といった多様なパラメータを設定した長期のコンクリート膨張実験と組み合わせることによって,劣化機構に即した膨張予測法へと拡張することを目指している。 2022年度は,主に高温高pH溶液下における骨材岩石中の高反応性シリカの溶解過程に関する観察実験および環境温度を要因としたコンクリートの膨張実験の2点を実施した。 前者は,比較的反応性の高い安山岩と変成岩の一種であるマイロナイトの骨材粒子を対象に,高温のNaOH中に浸漬した際の断面の各種シリカ鉱物の溶解のようすについて浸漬時間を変えながら走査電子顕微鏡(SEM)を用いて視覚的に捉えた。これにより,反応の進行に伴う粒界拡散パスの変化といった従来の反応モデルとの乖離点が指摘された。後者については,実環境で作用するような温度域,とくに10°CというASRにとって比較的低温条件下における膨張試験を実施した。その結果,膨張挙動および損傷形態が一般的な高温促進試験で得られる傾向と異なることが確認され,これがゲルの生成速度とひび割れの閉塞の両者のバランスによって支配されると示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点では代表的なものに限られているが,顕微鏡観察によって骨材鉱物のアルカリ中での溶解のようすを時系列で整理でき,構成鉱物やテクスチャで特徴づけることができた。一方で,当初予定していたコンクリート薄片の観察に関しては,目的に照らした適切な観察対象の選定や試料作製の技術習得の観点から若干遅れている。 本研究課題の範囲で一連の考察に必要なコンクリートの膨張実験に関する供試体作製は完了した。また,従来からの継続した膨張率のデータ取得は問題なく実施できている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果を踏まえ,骨材の特徴や供用環境を反映したASR膨張を予測するモデルの構築に着手する。その際に,各シリカの反応性や温度,アルカリ濃度といったアルカリシリカゲルの生成に関与する化学的な過程と,膨張圧を蓄積し反力をとる場(いわゆる膨張サイト)のモデル化,ひび割れによる膨張圧の解放,その後のひび割れの閉塞による影響といった力学的な過程を反映する必要性が認識された。従来の劣化機構に基づいたモルタルスケールのASRモデルを参考に,上述した課題を克服する改良を加えて妥当性を検証する。 各種コンクリートの膨張試験に関しては測定を継続し,より長期間での膨張データを取得する。また並行して,インフラメンテナンスの実務に落とし込むことを想定し,ASR劣化した既設コンクリートの残存膨張ポテンシャルを推定するための実験を開始する。具体的にはASR を起こす条件のコンクリート試験体を作製し,コアを採取したのち複数の促進試験を適用する。膨張履歴が明らかな母体コンクリートと比較することで,膨張予測法の残存膨張試験への適用性を評価する予定である。
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