コンクリートの膨張劣化要因の一つであるアルカリシリカ反応(ASR)に対し,将来的な劣化リスクの事前検出や材料設計の合理化といった観点から,劣化機構に即した膨張予測法の確立を目標とした。具体的には特徴の異なる5種の反応性骨材を対象に,(1)ミクロな材料スケールで ASR の反応過程を定量的に評価するための骨材浸漬試験および反応後の骨材粒子の微視的な観察,(2)材料やアルカリ量,温度といった各種因子がコンクリートの膨張へ与える影響を把握するための長期膨張試験,(3)骨材浸漬試験と膨張データを根拠として修正を加え構築した膨張モデルの妥当性の検証の3段階にて研究を進めた。 得られた知見として,(1)について,アルカリ溶液中の骨材からのシリカ溶出の温度依存性は,岩種が異なっても骨材ごとにアレニウス則に従った。しかし,骨材粒子へのアルカリ拡散を仮定した整理では拡散係数が粒径に依存し,岩種ごとにシリカ溶出の粒径依存性も異なることが確認された。この現象は経時的な骨材断面のSEM観察結果にも裏付けられた。(2)について,アルカリ総量で5.5~2.0 kg/m3の水準を設定し,60℃から10℃のそれぞれの室内環境および屋外環境下で2年以上の膨張データを取得した。その結果,反応初期は温度が高いほど,もしくはアルカリ量が多いほど膨張が促進された一方で,ひび割れ発生後は,促進効果の小さい低温もしくは低アルカリの条件ほど長期間で膨張を継続し,最終的に大きな膨張を示す傾向を得た。(3)について,従来のモルタルのASR膨張モデルを発展させ,シリカ溶出の粒径依存性を拡散係数の補正に反映させることで,コンクリートの膨張予測に拡張した。使用骨材ごとに骨材試験と促進膨張試験によって各種係数を決定し,温度条件を与えることで,実環境のASR膨張挙動を時間軸をもって予測できることを明らかにした。
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