研究課題/領域番号 |
22KJ2459
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
成重 椋太 九州大学, マス・フォア・イノベーション連係学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | ZION / スパッタリング / ZnO / エキシトントランジスタ |
研究実績の概要 |
本研究は,励起子トランジスタの動作実証のため,(ZnO)x(InN)1-x (以後ZIONと呼ぶ) の高品質結晶成長をさせることが目標である.結晶欠陥は残留キャリアを発生させるとともに,キャリアの散乱中心ならびに励起子の非輻射再結合中心となるからである.この高品質結晶成長における課題は,格子整合基板が存在しない中での単結晶膜の実現である.今年度は前年度までに得られた高品質ZION膜作製のための基板のキーパラメータ(面極性や表面モフォロジー)を制御しスパッタ粒子のマイグレーションを最大化させることで,300℃以下の低温においても,0.03度の(0002)面ロッキングカーブの半値幅と,0.2 nmの表面の二乗平均平方根(Root eansquare: RMS)粗さを有する高品質なZION膜の作製に成功した.ZION膜はZnO基板上に室温,150℃,300℃,450℃の基板温度で作成した.結晶品質について,面外配向性をX線回折,表面平坦性を原子間力顕微鏡によって評価した.結果として300℃以下で作成したZION膜は450℃で作成したZION膜に比べて面外配向性と表面平坦性に優れていることが分かった.これは基板のキーパラメータ制御によりマイグレーションを促進しつつ,InNの熱解離に起因する二次核形成が低温で抑制できたことが原因であると考えられる.また,低温で作製したZION膜の2θ-ωスキャンのピーク位置は450℃で作製したZION膜のピーク位置より低角側に観測されたことから,低温で作製したZION膜がコヒーレント成長していることを示唆している.これは他にも作成時の基盤温度が制限される材料にも有用な知見である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,電子-正孔がクーロン相互作用で結合した準粒子である「エキシトン」をキャリアとする「エキシトントランジスタ」を新材料ZIONにより実現することを目的とし,1) ZIONの高品質成膜, 2)エキシトントランジスタの動作実証, 3)エキシトン輸送メカニズム解明,の3項目について研究を行っている.R5年度は格子不整合基板の面極性や表面モフォロジーなどのパラメータ制御で付着原子のマイグレーションを促進することで,マイグレーションにおいては不利であるが,ZION膜中のInの凝集が抑制できる低温ZIONの高品質成膜を達成している.高品質ZION膜の電気特性を評価することもできた.R6年度以降は,項目1)で得られた高品質ZION膜からなる歪み量子井戸を形成し,エキシトン流の生成ならびにスイッチング動作実証を行うことで,項目2および3の早期達成を目指す.
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今後の研究の推進方策 |
R6年度は,単結晶ZION膜の光学特性を評価することで,ZION膜中の励起子の発光について評価する.この際,低温フォトルミネッセンス測定や時間分解フォトルミネッセンス測定を行うことで,ZION膜からの発行起源についても詳細に評価を行う.次にZnO基板上に単結晶ZION膜を作製し,ZION/ZnO歪量子井戸におけるエキシトン流生成およびその制御を行う.エキシトン流の生成は,ソース領域にレーザー光を照射することで,エキシトンの輸送は,ソース-ドレイン間に電圧を印加し,エキシトンの双極子ポテンシャルに勾配を与えることで行う.また,ポテンシャル勾配による励起子の輸送現象について,上記の実験結果とデバイスシミュレータ及び数値解析を用いた数理モデリングの構築を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では励起子の発光を評価するための光学特性評価の実験を行う予定であった.しかし研究過程で,膜作製時の基板温度の影響をさらに調査することでさらなる膜の高品質化の可能性が示唆された.このため,基板温度の影響をさらに調査するための実験を行う必要があり,光学特性評価の実験を行うまでに至らなかった.また,装置トラブルやインターンシップへの参加の必要性が生じたこも理由の一つである.次年度は基板温度の影響評価のための透過型電子顕微鏡による評価と光学特性評価の実験を行うとともに,国内および国際学会に参加する予定である.
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