研究課題/領域番号 |
22J20637
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
安部 彩乃 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 室温りん光 / 有機共結晶 / ハロゲン結合 |
研究実績の概要 |
本研究では、三重項励起子を直接発光に利用可能である、りん光材料を用いたレーザーの実現を目指す。りん光レーザーは、三重項励起子密度が高い状況下において有利な特性を持つため、CW発振時間の長時間化や、電流励起下におけるレーザー閾値の大幅な低下を実現できる可能性がある。 本期間はレーザー媒質となる強発光性室温りん光材料の開発を行った。りん光レーザーのレーザー媒質には、三重項励起状態吸収とりん光スペクトルの重なりがない分子が必要不可欠である。本研究では、このような分子として多環芳香族炭化水素化合物に着目した。多環芳香族炭化水素化合物は、三重項励起状態吸収とりん光スペクトルの重なりがない分子が存在することが知られており、さらに、ハロゲン結合性の共結晶を形成することで、室温りん光特性を発現する例が報告されている。まず、多環芳香族炭化水素を用いた複数の二元共結晶において、その結晶構造解析と光学特性評価を行った。この結果、結晶構造に依存した失活プロセスの存在が示唆され、結晶構造と発光効率に相関がみられた。得られた知見に基づき、望ましい結晶構造を有する新規三元共結晶を作製した結果、りん光量子収率の飛躍的な向上を実現した。作製した三元共結晶は、ストリークカメラや温度依存測定を用いて、エネルギー移動及び失活過程について詳細な検討を行い、有機りん光共結晶中における失活プロセスを検証した。 以上より本年度は、ハロゲン結合性の共結晶において強りん光発光性を示す共結晶の設計指針を得るとともに、りん光レーザーの活性媒体としての新規有機共結晶の開発を行った。これらの成果については査読付き学術誌、及び国内外の学会で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の計画通り、三重項励起状態吸収とりん光スペクトルの重なりがない分子を用いた、新規強りん光発光性有機共結晶を開発した。また、この過程において、ハロゲン結合性共結晶における発光効率と結晶構造についての相関関係を明らかにした。これらの成果については、学術誌及び国内外の学会で発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、作製した強りん光発光性有機共結晶を用いたレーザー素子の開発に取り組む。りん光発光は本来禁制遷移であり、蛍光を用いた従来の有機レーザー材料と比較すると、その誘導放出断面積は極めて小さい。従って、りん光材料からのレーザー発振を実現するためには、従来有機レーザーに用いられてきたものよりも、さらに効率的な光閉じ込めと高いパーセル効果を実現する、Q値の高い共振器構造が必要不可欠である。このため、今後の研究では、再現性・製造の容易性も加味しながら高Q値を実現する共振器構造の探索を行い、光励起によるレーザー発振を目指す。また、並行して発光材料のりん光量子収率の向上についても検討を行う。
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