研究実績の概要 |
一酸化窒素(NO)の亜酸化窒素(N2O)への還元は金属錯体によるNO直接分解に密接に関わっていると考えられる。申請者はNO還元によって生じるN2Oおよびμ-オキソ錯体をさらに反応させることができれば、NO直接分解が達成できるのではないかと着想した。そこで、金属錯体によるNO還元に続くNO直接分解の反応機構を密度汎関数理論(DFT)計算に基づき解析した。 申請者は既報 [Y. Kametani et al. Dalton Trans. 2021, 51, 5399-5403] において二核銅錯体によるNO還元の反応機構を提案した。本反応におけるμ-オキソ二核銅錯体 [Cu-O-Cu]とN2Oとの反応を検討し、NO還元を経由したNO直接分解経路を探索した。DFT計算の結果、[Cu-O-Cu]とN2Oとの反応によりμ-パーオキソ錯体 [Cu-O2-Cu]とN2分子が生成する反応経路が得られた。本反応は発熱反応ではあるものの、高い活性化障壁によりその進行は非常に困難であると示された。以上の結果から、μ-オキソ錯体とN2Oとの反応性の低さがNO直接分解のボトルネックであると予測される。 上述の活性化障壁を減少させる戦略として、NO還元後にμ-オキシル錯体 [M-O(・-)-M]を生成するような反応系を探索した。通常、二核金属錯体によるNO還元ではN2Oとμ-オキソ錯体が生成する。ここで、オキソ種(-O(2-))よりも活性の高いオキシル種(-O(・-))が生成物錯体として得られれば、続くN2Oとの反応の活性化障壁を減少させられるのではないかと着想した。このオキシル種生成を達成する金属錯体の候補としてCu-Zn異核金属錯体を選択した。DFT計算の結果、本錯体はオキシル種を中間体として経由し得ることが確認されたため、本錯体におけるNO還元およびNO直接分解の反応機構解析を進めている。
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