研究課題/領域番号 |
22J21391
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
原 江希 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
キーワード | ionic liquid / liquid crystal / DDS |
研究実績の概要 |
本研究では生体適合性・経皮浸透促進効果の優れたイオン液体を計算化学によりスクリーニングする方法を構築し、それを用いたイオン液体液晶キャリアを創製し高性能な経皮ワクチンの開発を目指している。この開発において、皮膚浸透性及び生体適合性の高いイオン液体を使用することは必須条件となる。しかしながら、アニオンとカチオンの組み合わせが10の16乗組存在するイオン液体の中から生体適合性と経皮浸透性を兼ね備えたイオン液体を実験によって一つ一つ合成し、評価するのは困難であり現実的ではない。そこで本研究では、計算化学や機械学習を用いて最適なイオン液体をスクリーニングする手法を導入する。令和四年度では、毒性予測モデル構築に着手した。COSMO-RS 計算化学ソフトを用いて分子の表面電荷を「毒性のメカニズムに基づく変数」とし、機械学習を駆使して毒性予測モデルを構築した。ある程度予測が可能となったが精度が低いため、今後は学習データを拡充し精度の向上を目指す。また、これまでに経皮浸透促進能力が高いことが報告されているILについて合成・液晶作成・薬物の皮膚浸透試験を行った結果、コリン及びオレイン酸を用いたILが非常に優れた生体適合性、皮膚浸透性を有していた。今後はさらに多種のILを用いて毒性予測試験、皮膚浸透試験を行い毒性予測モデルの学習データを拡充する。 実施した研究について、膜シンポジウム2022、YABEC 2022 Symposium、化学工学会第88年会にて発表を行い、YABEC 2022 SymposiumではBEST POSTER AWARD、化学工学会第88年会では優秀学生賞を受賞した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究が順調に進捗している主な理由として、σ-profileをパラメータに用いた毒性予測モデルの構築が細胞毒性予測モデルの構築及びイオン液体のスクリーニングを試み、トレーニングデータの予測結果ではR2 = 0.933バリデーションデータでは、R2 = 0.879とある程度実用的なレベル毒性予測モデルの構築に成功したことが挙げられる。 予測モデルを構築するために、まずσ-profileの算出を行った。COSMO-RS 計算化学ソフトを用いた分子の表面電荷を「毒性のメカニズムに基づく変数」として用い、機械学習を駆使して毒性予測モデルを構築する。σ-profileは化合物の静電的、水素結合的、分散的な相互作用を予測するための記述子であり電荷分布の位置、ピークの幅および高さは分子の性質によって変化し、分子の化学的性質を定量化することができる。 次にσ-profileをパラメータに用いた毒性予測モデルの構築を行った。非線形回帰モデルの一つであるランダムフォレスト(RMF)は複数の決定木を組み合わせて結果を出力する、アンサンブル学習の1つである。 作製した予測モデルを用いた解析では、ILのカチオンの非極性領域が毒性に大きく影響を及ぼすことが示唆された。この結果は、カチオンが毒性に大きく関与し、非極性領域が細胞膜との強い疎水性相互作用によって生細胞に取り込まれ、細胞死を誘導し毒性が高まるという既知の報告と合致している。このことから、この予測モデルは妥当性を持って予測していたことが確認された。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、毒性予測モデルの精度向上、96well High-Throughput-System(HTS法)によるイオン液体経皮浸透促進予想モデルの構築、イオン液体液晶キャリアの作製を行う。 まず毒性予測モデルの精度向上について、現在トレーニングデータの予測結果ではR2 = 0.933バリデーションデータでは、R2 = 0.879とある程度実用的なレベル毒性予測モデルの構築に成功している。ここから精度を向上させるために、学習データの拡充を行う。生体適合性が高いことが知られている脂肪酸やアミノ酸を用いたイオン液体を合成し、Hela細胞を用いた細胞毒性試験を行い学習データとして追加する。 次に、96well High-Throughput-System(HTS法)によるイオン液体経皮浸透促進予想モデルの構築を行う。毒性予測モデルによりスクリーニングしたイオン液体を合成し、既存のフランツセル経皮浸透性評価試験に代わる高速評価が可能なHTS法を用いた経皮浸透性評価試験を行い経皮浸透促進効果の学習データを拡充する。このデータを用いて回帰分析する事で、経皮浸透性予測モデルの構築を行う。 次に、優れたイオン液体をスクリーニングし、イオン液体液晶キャリアの作製を行う。抗原としてがん化した細胞組織のみに発現する分化抗原の一種、Tyrosinase related protein-2のエピトープ配列として知られるTRP-2180-188 (SVYDFFVWL)ペプチド抗原を選択する。まず、イオン液体-水系の相図を作成し、イオン液体液晶を調製可能な組成を検討する。次にマウス皮膚を用いたがん抗原の皮膚浸透性試験を行い、経皮ワクチンとして利用するための最適な経皮浸透条件を導く。最後に担がんマウスを用いた動物試験によって経皮ワクチン効果の検討を行い、イオン液体液晶キャリアのワクチン効果を検証する。
|