研究課題/領域番号 |
22J21487
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
海老原 健 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
キーワード | カイコ-バキュロウイルス発現系 / 組換えタンパク質生産 / 分泌不全 / 小胞体ストレス応答 / NGS解析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、カイコ小胞体ストレス応答の理解によるタンパク質分泌不全の原因解明と、その克服による大量生産システムの確立である。そのために、NGS解析を用いた分泌不全時に特異的に発現変動する小胞体ストレス応答関連遺伝子の抽出および分泌不全原因の候補遺伝子の選抜を実施した。 まず、カイコ小胞体ストレス応答遺伝子群の同定と高分泌性および低分泌性の組換えタンパク質モデルの選定を行った。カイコ培養細胞をN型糖鎖修飾阻害剤であるツニカマイシンで処理し、RNA-seq解析を用いた発現変動遺伝子群の抽出を行った。結果として、小胞体ストレス応答誘導時に発現が上昇するカイコ小胞体ストレス応答遺伝子の同定に成功した。モデルタンパク質の選定に関しては、低分泌性タンパク質発現時に特異的な発現変動遺伝子を抽出するために、発現させるタンパク質そのものの影響が可能な限り排除されることを指標とした。その結果、アミノ酸配列やAlphaFold2で予測された立体構造の類似性が高い、ヒトとマウス由来のInterleukin-1α (IL-1α) の分泌量に大きな差があり、モデルタンパク質として優れていると考えた。また、これらのヒトとマウスIL-1αのドメイン置換により、分泌量が段階的に異なる複数のキメラIL-1αの作製にも成功した。 次に、分泌性の異なるIL-1αをカイコ培養細胞で発現させ、遺伝子発現データの取得および発現変動遺伝子の抽出を行った。組換えタンパク質の発現が始まるウイルス感染24時間後で比較を行ったが、低分泌性組換えタンパク質発現時特異的に発現変動する遺伝子は2つのみで、いずれも小胞体ストレス応答遺伝子ではなかった。また、組換えバキュロウイルス感染時と非感染時の解析では、組換えタンパク質の過剰発現状態であるにも関わらず、小胞体ストレス応答遺伝子の発現上昇が一部抑制されていることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画で目標としていた、カイコ-バキュロウイルス発現系における低分泌性組換えタンパク質発現時に、特異的に発現変動する小胞体ストレス応答遺伝子の同定には至らなかったため、やや遅れているという区分を選択した。しかしながら、本研究に必要なNGS解析の技術習得、カイコ小胞体ストレス応答遺伝子の同定、分泌性の異なるモデルタンパク質の選定および細胞内動態の解析を完了させることができた。また、組換えタンパク質の過剰発現状態であるにも関わらず、小胞体ストレス応答遺伝子の発現上昇が一部抑制されているという知見を得た。さらに、分泌不全の原因遺伝子を制御するために、次年度に計画していたバキュロウイルスの新規ゲノム編集技術の開発を他の研究助成により前倒しで遂行したため、ゲノム編集ウイルスを容易に構築できる体制を整えている。以上のことから、当初の計画からやや遅れているものの、本研究課題の目標達成に近づく成果を得たと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、組換えタンパク質分泌不全の原因遺伝子の探索を行う。今年度は組換えバキュロウイルス感染24時間後の遺伝子発現変動を比較したが、組換えタンパク質の不溶化を主要因とするタンパク質の蓄積がより顕著に観察される感染24時間以降の遺伝子発現データをRNA-seq解析により取得する。また、昨年度の研究成果により、バキュロウイルス感染による遺伝子発現のシャットオフが、組換えタンパク質発現による本来の宿主遺伝子発現変動を制限している可能性が示唆された。そこで、ウイルス非感染状態で組換えタンパク質を過剰発現させ、低分泌性組換えタンパク質発現時に特異的に発現が変動する宿主遺伝子の同定も並行して行う。これらの実験で同定した分泌不全を解消する候補遺伝子は、RNAiによる機能阻害や過剰発現などの手法を用いて組換えタンパク質の分泌性を向上させるか検証する。 また、当初の研究計画を前倒しして、バキュロウイルスの新規ゲノム編集技術を用いた組換えタンパク質高分泌に必要な遺伝子の複数同時発現や分泌性低下の原因となるウイルス遺伝子の欠損などを行い、バキュロウイルスの改変も進める。
|