研究課題/領域番号 |
22J23814
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
齋藤 真 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / マイクロ流体チップ / 流体制御 / 細胞操作 |
研究実績の概要 |
細胞や花粉の化石といった微粒子をハイスループットに分取する.この目的を達成するため,分取システムのスループットを律速する原因となっている粒子のランダムな流入間隔の統制を行うこととした.具体的には,マイクロ流体チップに統合した流体制御技術を用いて,以下の手法で課題に取り組んだ.(1) 流路内部に流入する粒子を濃縮することでその空間的間隔を狭め,(2) 渦を周期的に生成し,その圧力場を仮想的なゲートとして利用することで時間的間隔を統制し,(3) 支流から流体を追加することで,所望の間隔に制御する.本年度は,マイクロ流体デバイスの設計・製作,各流体制御の基礎評価を行い,以下の成果を得た.(a) デバイス設計・システム構築:マイクロ流路環境下において高速かつ精密な流体制御を行うための配管抵抗に基づく流路の設計論を確立した.また,ピエゾアクチュエータを基盤とした流体制御系を設計し,光学系の観察部,電気系の制御部からなる実験システムを構築した.(b) 粒子間隔制御:マイクロ流体チップ上に統合した圧電素子の音響力によって粒子を流路中央に配列し,流体制御によって流体を段階的に吸引することで,マイクロ流路において粒径100 umの大型の粒子を詰まらせることなく濃縮することに成功した.この流体制御技術は,大型粒子の高濃度な懸濁液をマイクロ流路環境下で解析可能とすることから,マイクロ流体デバイスの応用性を拡張するものである.これに加えて,ピエゾアクチュエータを駆動源とするオンチップメンブレンポンプによって,周期的な渦生成が可能であり,この渦によって粒子の時間間隔が統制されることを確認した.また,マイクロ流路の流速と渦の動的な生成の関係を調べ,これまでその優位性が示唆されながらも知見に乏しかったマイクロ渦の時空間生成の条件を調査した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微粒子のハイスループットな分取を達成するため,マイクロ流路に流入する粒子のランダムな間隔を統制するべく,マイクロ流体チップ上での高速かつ精密な流体制御に基づく粒子の操作手法を考案し,デバイスの設計・製作,実験システムの構築を行い,原理検証のための基礎実験をした.その結果,提案手法の有効性が確認され,順調に研究が進んでいると判断できた.以下にその概要をまとめる. まず,後流に向かうにつれて段階的にその流路幅が狭くなっていく支流を3次元的に配列した流路を設計した.流路に導入した100 um程度の大型の粒子を,圧電素子の音響力によって流路中央に留めながら,支流から段階的に流体を吸引することで,1 m/sの高速流環境下で詰まらせることなく濃縮することに成功した.濃縮前後で粒子間の距離は8倍程度狭められており,濃縮後の間隔は粒径の2から3倍と十分に狭くなっていたことから,間隔制御において有効性が確認された. 次に,ピエゾ駆動型オンチップメンブレンポンプの高速な局所流れによって渦がオンデマンドに生成できることを確認した.大型粒子を模した100から160 umのポリスチレンビーズを導入したところ,渦の生成に合わせて停止・搬送される様子が実際に観察され,渦の圧力場が仮想的なゲートとして機能していることを実証した.また,この渦を500 Hzの周期で生成したところ,2 msの倍数に粒子の時間間隔が統制されていたことから,その有効性が確認された.以上から,粒子のランダムな間隔を制御できる見通しが立てられた.
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今後の研究の推進方策 |
各流体制御技術の評価を進めた後,これら制御技術をマイクロ流体チップ中で連続的に行い,微粒子の間隔制御に取り組む.さらに,分取システムと統合することで,粒子のハイスループットな分取に挑戦する.具体的には,まず,支流から流体を導入することで所望の粒子間隔に制御する希釈の流体制御の評価を進める.その後,吸引による濃縮,渦によるスペーシング,支流による希釈をマイクロ流体チップ中で連続的に行うことで,実際に粒子のランダムな間隔をハイスループットに統制できることを確認する.ここまでの実験で得られる知見を基に,技術的な課題や流路設計の見直しを行うだけでなく,後流部に分取技術を統合し,実際に分取実験に取り組む.より詳細な推進方策を以下にまとめる.(a)デバイス設計・システム構築:流体制御の評価実験を基に,目標値と照らし合わせ,流路形状やメンブレンポンプの見直しを行う.さらに,オンチップ流体制御を基軸とした分取技術を統合する.システムにおいては,分取対象を検出する光学系,検出に基づいて分取を決定する計算機を構築する.(b) 粒子間隔制御:粒径100から160 umの粒子を用いて,希釈技術の評価を行う.次に各流体制御を連続的に行い,その前後で粒子の間隔が変化していく様子を観察し,流速条件によって所望の間隔に制御できることを確認する.(c) 粒子分取:粒子間隔制御技術と分取技術を統合したマイクロ流体チップにおいて,各流体制御が機能することを確認する.その後,非蛍光と蛍光の粒子を混ぜた懸濁液を流路内部に導入し,分取機構に合わせてその間隔制御を行う.これら間隔を統制した粒子の蛍光を検出し,目的の蛍光粒子のみがハイスループットに分取できることを確認する.
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