研究課題/領域番号 |
21J00663
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
福本 隼平 長崎大学, 熱帯医学研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | マラリア / マラリア原虫 / 肝内期 / ホストハイジャック / 脂肪滴 |
研究実績の概要 |
マラリアの原因であるマラリア原虫は蚊の吸血と共にヒト体内に侵入する。原虫は肝臓で数を増やしたのち、血管に移動して赤血球に感染する。肝内期マラリア原虫の生態は赤血球期と比較してまだまだ不明な点が多く、 効果的な薬剤も少ないのが現状である。肝細胞ステージでは、原虫は寄生胞膜(PVM)を形成しその中で1万倍以上に増殖する。原虫が急速に増加するためには、細胞膜成分として脂質分子を短期間で大量に必要とするが、 原虫の脂質合成系だけでは必要量の脂質分子を供給することは難しいと考えられる。そのため、宿主細胞から脂質分子を原虫に供給するシステムが存在すれば、原虫が必要量の脂質分子を迅速に獲得できる。この脂質分子の供給源の一つとして考えられるのが脂肪滴である。脂肪滴は単なる脂質の貯蔵庫ではなく、いくつかのタ ンパク質によって様々なオルガネラと複合体を形成し脂質の供給を行う構造体である。また、肝内期マラリア原虫ではPVMの周囲に宿主のオルガネラを引き寄せる現象が観察されていることから、原虫は脂肪滴の脂質供給システムを利用して増殖に必要な脂質分子を得ている可能性が高い。よって、肝内期マラリア原虫における急速な増殖に関わる分子基盤を明らかにするためには、原虫と脂肪滴・オルガネラ複合体間での脂質分子の動態を明らかする必要がある。本研究では肝内期マラリア原虫のバイオロジーの解明に向けて、原虫の急速な増殖をサポートする宿主細胞から原虫への脂質供給メカニズムの解明を行う。そのため、脂質分子の供給源と考えられる脂肪滴・オルガネラ複合体に焦点をあて、複合体の形成異常が原虫の増殖に与える影響を解析する。これにより、どのオルガネラと脂肪滴の複合体が原虫に脂質分子を供給しているのか明らかにする。また、供給される脂質分子組成を解析することで、どのような脂質分子群が原虫の増殖をサポートしているのか調査する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言、またはまん延防止等重点措置により、共同研究先である研究機関への出勤が制限されてしまった。当該研究機関でのみネズミマラリア原虫(P. berghei)の感染実験を行なえるため、実験を進めることが困難となった。これにより、本研究課題の進行は当初の予定より大幅に遅れることになった。
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今後の研究の推進方策 |
マラリア原虫感染肝細胞における脂肪滴・オルガネラ複合体の動態解析と脂肪滴形成の観察を行う。すでに肝細胞内の脂肪滴を観察するシステムやプロトコルは確立している。この系を利用して、寄生胞膜周辺でのオルガネラと脂肪滴の複合体形成を確かめる。まず、原虫が感染した肝細胞における脂肪滴や各種オルガネラを蛍光プローブで標識する。脂肪滴は中性脂質中で緑色の蛍光を発するLipid-Green、オルガネラは膜電位や低pHを検出するMitoTrackerやLysoTrackerで染色する。次に、共焦点レーザー顕微鏡や超解像顕微鏡を用いて脂肪滴とオルガネラの局在観察を行う。また同時に、感染刺激による宿主応答を明らかにするため、感染細胞における脂肪滴の数や量の測定も行う。 つぎに、脂肪滴・オルガネラ複合体形成タンパク欠損細胞におけるマラリア原虫の増殖測定を行う。どのオルガネラと脂肪滴の複合体が原虫の増殖に影響を与えているのか明らかにするため、各オルガネラと脂肪滴の複合体形成タンパクを欠損させた肝細胞におけるマラリア原虫の増殖能力を測定する。脂肪滴との結合に関わる候補タンパクの遺伝子をCRISPR/Cas9法でノックアウト(KO)する。これらの遺伝子を肝細胞でKOしたのち、蛍光タンパク質を発現するネズミマラリア原虫(P. berghei)をKO細胞に感染させる。次に感染細胞を共焦点レーザー顕微鏡や超解像顕微鏡を用いて観察し、原虫の増殖率を測定する。タンパク質遺伝子がKOできない場合は、small hairpin RNA(shRNA)を用いたRNAiにより遺伝子ノックダウンを行い、目的遺伝子の発現を低下させる。
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