核酸医薬躍進の背景には、優れた人工核酸や化学修飾法の開発およびドラックデリバリーシステムの構築により、オリゴ核酸の物性が改善され、開発基盤が整備されたことが大きい。一方で、現行の核酸医薬品の課題として、1)毒性および2)動態制御が挙げられており、未だ十分な解決には至っていない。 そこで、本研究では、核酸医薬品の忍容性・動態制御の課題を解決する核酸医薬の素材を開発することを目的に、キラル天然物に着目した新規核酸分子の開発を目指した。具体的には、天然DNAやペプチド核酸と類似した立体構造を有するペニシリンに着目し、オリゴ核酸へ導入可能なペニシリノ核酸モノマーの開発を試みた。 初年度においては、ペニシリノ核酸モノマーの合成検討として、ペニシリン分子の2β位のメチル基に核酸塩基に相当する置換基の導入を試み、市販のペニシリンGを原料として総7工程にて合成を達成した。 本年度は、開発したペニシリン誘導体をペプチド固相合成法にてペプチド核酸(PNA)のN末端への導入を試みた。一般的なペプチド固相合成法を用いて縮合し、トリフルオロ酢酸(TFA)を用いて固相担体から切り出した。得られた粗生成物を逆相高速液体クロマトグラフィーで化合物の分析し、ESI-MSで分子量を同定した所、ペニシリン誘導体のβラクタム環が開環していることが判明した。そこで、固相担体の種類を検討し、弱酸であるHFIPでの切り出しが可能な固相担体を用いることでペニシリン誘導体のβラクタム環が開環することなく、PNAオリゴマーへの導入が可能であることを見出した。
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