研究課題/領域番号 |
21J20376
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
木下 慶大 熊本大学, 大学院薬学教育部, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 脳内出血 / 核内受容体 / Nurr1 / ミクログリア / 軸索損傷 |
研究実績の概要 |
脳内出血は高い死亡率や重篤な後遺症を特徴とする疾患であるが、推奨される根本的治療薬は存在していない。そのため、病理形成機序の解明と治療薬候補化合物の探索・同定が求められる。これまでの我々の研究結果から、核内受容体Nurr1作動薬であるアモジアキン (AQ)、ヒドロキシクロロキンおよびC-DIM12が脳内出血病態に対して治療効果を発揮することが示された。しかしながら、Nurr1を治療標的とした研究結果について知見が断片的である。そのため、それらを明らかにし脳内出血に対する治療標的候補としてのNurr1の妥当性を明らかにすることを目的とした。 マウス脳内出血モデルを用いて検討を行なった。C-DIM12の効果の用量依存性について検討するため100 mg/kgの用量で経口投与した結果、脳内出血後の運動機能障害が軽減され、神経細胞死が抑制された。加えて、活性化型ミクログリア・マクロファージの集積も抑制された。ただしその効果は、これまで検討を行なっていた50 mg/kgの用量で観察されたのと同程度であり、治療効果は頭打ちになっているものと考えられた。一方、Nurr1は誘導型一酸化窒素合成酵素 (iNOS) の転写を抑制することで抗炎症作用を示すことが報告されているためiNOSに着目したところ、C-DIM12とAQはともに脳内出血後のiNOS遺伝子発現レベルの上昇を抑制し、一酸化窒素由来酸化ストレスのマーカーであるニトロチロシンの発現も低下させた。そこで、iNOS阻害薬である1400Wを用いて検討を行なったところ、1400W (20 mg/kg, 1日2回) の腹腔内投与は脳内出血後の脳組織における酸化ストレスや炎症反応を抑制したが、神経軸索損傷や運動機能障害の軽減効果は限定的であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Nurr1作動薬であるAQとC-DIM12に共通に認められた抗炎症作用において中心的役割を担うものと予想されたiNOS遺伝子の転写抑制効果に着目し、脳内出血病態に対するiNOS阻害薬1400Wの効果を検討した。その結果、1400Wは酸化ストレスや炎症反応を抑制したものの、神経軸索路傷害や運動機能障害に対する軽減効果は限定的であったことなどから、Nurr1が炎症反応非依存的に神経軸索路を保護する可能性を新たに見出した。なお、C-DIM12に関するここまでの知見については原著論文として投稿し、Scientific Reports誌に受理・掲載された。一方で、Nurr1作動薬が炎症反応への作用に依存せずに神経軸索路を保護する可能性を見出したことから、そのメカニズムを明らかにするため、皮質脊髄路の神経軸索投射を形成する大脳皮質神経細胞へのNurr1過剰発現系を構築すべく検討を行なっている。加えて、フローサイトメトリーによる血球系細胞・免疫細胞の解析が順調に実施できるようになっており、これまで未検討であった末梢からの免疫細胞の浸潤とそれらに対するNurr1作動薬の効果の検討についても現在進めている段階である。このように、Nurr1の機能およびNurr1作動薬の作用機序を解明するための多角的な検討が実行できている。
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今後の研究の推進方策 |
Nurr1およびNurr1作動薬が炎症反応非依存的に神経軸索路を保護するメカニズムを明らかにするため、皮質脊髄路の神経投射を形成している大脳皮質運動野の神経細胞にNurr1を過剰発現させ、脳内出血後の神経軸索路傷害に対する保護効果や運動機能改善効果が見られるかについて検討する。また、フローサイトメトリーを用いて脳内出血誘発後の末梢血から脳組織内への血球系細胞・免疫細胞の浸潤に対するNurr1作動薬の効果の検討を行い、中枢神経系に対する直接作用に加えて末梢性の作用も考慮したNurr1作動薬の作用メカニズムの包括的な理解につなげる。さらに、新規の化学構造を有するNurr1作動薬あるいはNurr1発現誘導薬の探索・解析については、ミクログリア系BV-2細胞を用いてルシフェラーゼ活性を指標にしたハイスループットスクリーニング系の構築を進めており、当該スクリーニング系を用いた新規候補化合物の同定を目指す。
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