近年、オプトジェネティクスや超解像蛍光イメージング技術の分野において、フォトクロミック分子の重要性が再認識され、その応用に向けた研究が活発化している。しかしながら、従来のフォトクロミック分子は、光反応に紫外光を必要とするという問題が指摘されている。この問題の克服に向け、紫外光よりも長波長の光で可逆的な光反応を誘起できる新しいフォトクロミック分子の開発が切望されている。 そのような中、申請者はペリレンビスイミド(PBI)を連結したジアリールエテン(DAE)誘導体にPBIのみが吸収する可視光を照射と、その光を吸収しないDAEが光閉環反応を示すことを見出した。この光反応のメカニズムはPBIの励起一重項状態が生じた後、直接DAEの三重項へとエネルギー移動が起こり、そこから光閉環反応が進行するという過程を申請者は考えているが直接的な証拠は得られていない。そこで本研究では、この特異な光反応のメカニズムを解明し、最終的には近赤外光でフォトクロミズムを示すジアリールエテンの開発を目標としている。 この目標に向け、3年目では2年目までに見出した、高効率に可視光閉環反応を示す分子の更なる効率向上を試みた。その結果、測定条件を最適化することで、可視光閉環反応量子収率は0.1まで増大し、当初の分子より約34倍量子収率が増大した。この分子に対して、過渡吸収スペクトルの測定を行った結果、可視光を照射した数ps後のスペクトルにおいて、PBIのラジカルカチオンに由来するピークが観測された。この結果から、可視光照射によってPBIとDAEの間で電荷分離状態を形成した後、閉環反応が進行している可能性が示唆された。得られた結果から総合的に考えると、上述の分子は当初の分子とは異なるメカニズムで可視光閉環反応が進行している可能性が明らかとなり、新たなメカニズムで可視光閉環反応を誘起可能な分子の開発の可能性を見出した。
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