研究課題/領域番号 |
22J00454
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
伊達 悠貴 熊本大学, 発生医学研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 骨肉腫 / 炎症 / p53 / Myc |
研究実績の概要 |
がん抑制遺伝子p53の遺伝子異常と、がん遺伝子Mycの過剰発現は、発がんの起因となる代表的なゲノム・エピゲノム異常である。私たちは先行研究において、これらの異常が発がんをもたらす機序について、p53破綻性の骨肉腫モデルマウス(通称OSマウス)を用いて解析してきた。OSマウス(Osx-Cre;p53fl/fl)は、間葉系幹細胞においてp53を欠損し、ヒトに類似した病態の骨肉腫を自然発症する。同マウスの解析により、p53の遺伝子異常が、がん微小環境に由来する炎症刺激を介して、発がんに必須なMycの過剰発現をもたらすことが示唆された。 本研究では、骨肉腫の発症機序が、p53破綻と炎症の連動がもたらすMyc過剰発現であることを生体レベルで示し、その分子機序を精査する。 本年度においては、生体マウスの骨髄微小環境における炎症刺激をモデルするために、トレッドミルによる過運動を取り入れた。OSマウスに過運動を課したところ、発がんが早まって短命化する効果が得られている。これは、p53破綻と炎症が連動することで、発がんが加速することを示している。 今後は、過運動による炎症刺激の正体となるサイトカインを特定することで、炎症が骨髄微小環境にもたらす発がん性変化を解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【炎症は骨肉腫発症を助長する】 骨肉腫の発症ピークは、OSマウスは中年期(約1年齢)であり、ヒト患者の青年期(10-20歳代)に比べて遅い。骨リモデリングの実質は、運動という機械刺激によって惹起される微弱な慢性炎症である。したがって、OSマウスが発がんするまでの長い潜伏期間の原因として、通常の飼育環境における極端な運動不足を考えた。そこで、「OSマウスに過運動を課すと、骨微小環境において炎症が亢進することで発がんが早まる」という仮説を立てた。これを検証するため、6-8か月齢のOSマウスに強制運動を課している。運動負荷は、トレッドミルおよび車輪を用いて毎日1km以上の強制走行を週に5日行っている。その結果、過運動群(n=11)は、対称群に比べて、骨肉腫の発症が早まり、寿命が縮まる傾向が得られている。今後は統計的有意差が得られるように、さらに個体数を増やして検証を続ける。 運動負荷実験は、①運動期間が長期(数か月)であること、②同時に走らせられるマウスの数が限られていること、③常にマウスの側に実験者が常駐していなくてはならないこと、といった理由から非常に手間がかかる。 また、マウスに想定外の影響を与えないよう、実験条件(走行スピード、傾斜、電気刺激の強さ)の最適化に半年ほどの時間がかかり、予想外に時間を費やしてしまった。
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今後の研究の推進方策 |
【炎症が骨肉腫起源細胞にもたらす発がん性変化を特定する】 骨肉腫の起源細胞の一つが間葉系幹細胞であることを示すため、iOSマウス(Osx-CreER;p53fl/fl;ZsGreenLSL/+;Col1-Tomato)を作出した。iOSマウスにおいては、タモキシフェン刺激によってp53KO間葉系幹細胞をラベルし、その系譜細胞を追跡することができる。iOSマウスを生後5日時点で刺激したところ、OSマウスと同様に1年ほどで骨肉腫を罹患して死亡することがわかった。iOSマウスの骨髄においては、間葉系幹細胞の腫瘍性クローナル増殖が見られた。以上から、OSマウスのがん起源細胞が間葉系幹細胞であることがわかった。 今後は、過運動による炎症が発がんを早める機序を分子的に解明するため、iOSマウスに運動刺激を課し、分取したp53KO間葉系幹細胞における遺伝子変化を解析する。予備実験においては、OSマウスに過運動を課すことで、血清TGFβ量が増加する傾向が得られている。RNA-seqやサイトカインアレイなどの包括的解析により、発がんの起点となる炎症性変化を分子レベルで特定したい。
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