研究課題/領域番号 |
22KJ2515
|
配分区分 | 基金 |
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
伊達 悠貴 熊本大学, 発生医学研究所, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
キーワード | 骨肉腫 / TGFβ / p53 / Rankl |
研究実績の概要 |
【骨肉腫発症に伴ってTGFβ依存的にRanklの発現が増加する】 p53破綻性の骨肉腫モデルマウス(通称OSマウス)において、p53の遺伝子異常が、がん微小環境に由来する炎症刺激を介して、発がんに必須なMycの過剰発現をもたらすことが示唆されている。 OSマウスの骨肉腫発症にはTGFβシグナルが必要であることが判明している。具体的には、OSマウスからTGFβシグナルを無効化させたOS;Tgfbr2fl/+マウスでは、骨肉腫の抑制効果と寿命の延命効果が見られた。この抗骨肉腫効果は、OSマウスへTGFβ阻害剤を腹腔内注射することでも確認された。OSマウスから樹立したOS細胞にTGFβ刺激を与えると、Mycの発現が顕著に増加する。これに加えて、破骨細胞分化促進因子Ranklの発現も大きく増加することが判明した。 【RanklはOS細胞の浸潤・転移に重要である】 野生型の被移植マウスにOS細胞を脛骨内注射すると、皮質骨への浸潤や肺転移といった進行性がんの病変を呈し、約1か月後に死亡する。移植に先立ってOS細胞からRanklをノックダウンしておくと、被移植マウスには皮質骨浸潤も肺転移も見られず、結果的にマウスは延命した。 以上より、骨肉腫発症の分子機序として、骨微小環境における慢性炎症の存在が示唆された。すなわち、腫瘍細胞内でTGFβシグナルがRanklの発現を誘導し、破骨細胞分化を介して慢性炎症(骨リモデリング)を惹起している可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【脛骨内移植による発がん性の評価】 これまで、ある遺伝子の発がん性を生体レベルで評価するために、OSマウスから当該遺伝子を遺伝的に欠損させる方法を採用してきた。この方法は最も確実であるが、OSマウスは骨肉腫発症まで平均1年を要するため、長い交配および潜伏期間が研究全体の進捗のボトルネックとなっていた。そこで、野生型マウスの脛骨内にOS細胞を移植することで骨肉腫発症を再現する方法を樹立した。この脛骨内移植により、早期に生体レベルで遺伝子の機能検証を行うことが可能になった。 しかしながら、この脛骨内移植の手技を確立するために、想定以上の時間がかかった。脛骨内移植には、脛骨の上関節面から髄腔内に細胞を注入する必要がある。しかし、刺入位置が髄腔内からずれて脛骨側面に細胞が移植されてしまう例が多かった。この脛骨傍移植では、皮質骨浸潤を観察することができず、その原因解明と手技の改善に時間を要した。
|
今後の研究の推進方策 |
【Ranklは骨肉腫の浸潤・転移に必要である】 Ranklの造腫瘍効果がTGFβ下流であることを確認するため、Tgfbr2をノックダウンしたOS細胞の脛骨内移植を試み、Ranklのノックダウンと同じ表現型(皮質骨浸潤と肺転移の消失)が観察されることを確認する。また、OSマウスからRanklを欠損させたOS;Rankl fl/flマウスを作成し、その発がん性及び転移性が消失するかを検証する。 Ranklは細胞表面タンパクであるが、分泌型も存在する。分泌型の発現量が発がんの進行程度と相関するかどうかをマウス及び骨肉腫患者で検討する。これにより、末梢血から採取した循環がん細胞の解析することで、骨肉腫の診断や治療評価の基準への応用を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次世代シーケンシングの実験およびデータ解析のための予算を計上していたが、今年度は他のマウス生体実験に時間がかかり、次世代シーケンシングは次年度に見送ることになったため。
|