研究課題/領域番号 |
22J12306
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
安達 駿弥 熊本大学, 自然科学教育部, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | モノドロミー不変エルミート形式 / 線形Fuchs型常微分方程式 / パンルヴェ方程式 / ガルニエ系 / モノドロミー多様体 |
研究実績の概要 |
本研究は,線形Fuchs型常微分方程式のモノドロミーが不変エルミート形式を持つ(即ちユニタリ性を持つ)とき,その線形方程式に対応するパンルヴェ方程式の解がどのような性質を持つかを明らかにすることを目指している。 本年度は,昨年度に受理された論文で得られた結果の一般化が得られた。即ち,(n+1)個の特異点を持つ2階線形Fuchs型方程式のモノドロミーが不変エルミート形式を持つための条件をモノドロミー多様体と呼ばれる代数多様体の座標を用いて特徴付け,さらにそのようなモノドロミーと付随する不変エルミート形式を具体的に構成した。モノドロミー多様体の点は,第6パンルヴェ方程式(n=3の場合)やガルニエ系(n≧4の場合)の解と対応している。例えば第6パンルヴェ方程式の解のタウ函数の漸近展開及びフーリエ展開はモノドロミー多様体の言葉で記述されることが知られている(神保,Gamayun-Iorgov-Lisovyyなど)。従って上記の結果は,Hermitian-classに属するパンルヴェ方程式やガルニエ系の解とそれらに付随するエルミート形式を解析しやすく,また先行研究との親和性が高い見方で捉えたことを意味している。 以上の研究成果をまとめた論文を学術雑誌に投稿した。またいくつかの研究会において成果を発表し,多くの専門家と意見交換した。
また,本研究と多変数完全積分可能系の理論を関係させるという着想の下で具体例の計算を始めた。具体的には,与えられた線形Fuchs型方程式を特異点集合への制限に持つような完全積分可能な線形Pfaff系の構成とその解析である。完全積分可能系やそのモノドロミー,方程式の延長・制限は現在活発に研究されており,モノドロミー保存変形を通してパンルヴェ方程式やそれを一般化した非線形方程式の特殊解とも関係がある。今後も本研究課題の視点から考察を深めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の進捗として,Hermitian-classに属するパンルヴェ方程式やガルニエ系の解をモノドロミー多様体を用いて特徴付け,対応する線形方程式のモノドロミー及び不変エルミート形式を具体的に記述できたことが挙げられる。 モノドロミー多様体の座標を用いる方法は本研究課題申請時にはなかった着想であり,この方法を用いたおかげで神保,Gamayun-Iorgov-Lisovyyらの公式との関係が見やすい結果が得られたほか,申請時には射程外であったガルニエ系に対応する線形方程式の場合も考えられるようになった。結果を論文にまとめて投稿し,また研究集会等で講演して多くの専門家と意見交換をすることができた。 一方,Hermitian-classに属する解の具体的な解析や特殊解(代数関数解など)との関係をつける研究については具体例の考察にとどまっており,十分に進展がないままに終わってしまった。しかしながら完全積分可能系との関係という新たな着想を得て,具体的な計算にも着手できた。 以上を踏まえて,おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
モノドロミー多様体に関する先行研究を手がかりにしながら,Hermitian-classに属する解の具体的な解析や特殊解(代数関数解など)との関係をつける研究を進めたい。 また新たなアプローチとして,今年度得られた着想である多変数完全積分可能系の理論との関係に着目した研究も続けていく。 上述のように,完全積分可能系はモノドロミー保存変形を通してパンルヴェ方程式やそれを一般化した非線形方程式の特殊解とも関係があることが知られているほか,研究計画に記載した完全WKB解析や共形場理論などの分野にも現れる研究対象である。そこで完全積分可能系に対するmiddle convolution(多変数Katz理論)や方程式の延長・制限などの手法を取り入れながら考察を進め,高階も含めたパンルヴェ方程式のHermitian-classに属する解の性質の解明を目指す。 そして国内外で開かれる研究集会にも積極的に参加して研究成果を発表し,意見交換を行うことで更なる研究の発展と研究交流を図る。
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