本研究ではパンルヴェ方程式の解のうち,モノドロミー(・ストークス)不変エルミート形式を持つ線形常微分方程式の変形を記述する解のクラス(Hermitian-class)に着目し,このクラスに属する解の性質を明らかにすることを目標としていた。研究の経過と得られた成果は以下の通り。 まずはHermitian-classのモノドロミー多様体を用いた特徴付けを与えた:(n+1)個の特異点を持つ2階線形Fuchs型方程式のモノドロミーが不変エルミート形式を持つための条件をモノドロミー多様体の座標環を用いて特徴付けた(論文受理済)。これはパンルヴェ方程式の多変数化であるガルニエ系と呼ばれる非線形方程式のHermitian-classを特徴付けたことを意味する。続いてFuchs型とは限らない2階線形常微分方程式がモノドロミー(・ストークス)不変エルミート形式を持つための条件を野生的指標多様体を用いて特徴付けた。これは第1から第5パンルヴェ方程式のHermitian-classを特徴付けたことを意味している。 その後,当初の計画をやや修正して多変数完全積分可能系に対する研究を行った:結果として,不確定特異性を持つ線形Pfaff系に対するFourier-Laplace変換をKatz理論の枠組みで定式化し,その応用としてKatz理論において重要であったmiddle convolutionと呼ばれる変換の多変数・不確定版の定義を与えることができた。この結果については進捗状況も含めて研究集会で数多く講演し(招待講演含む),現在は論文を準備中である。 完全積分可能系はそれ自体が重要な研究対象であるだけでなく,モノドロミー保存変形を通じてパンルヴェ方程式やその高階化,多変数化にあたる方程式たちと深く関わっている。本研究で得られた結果をこれらの方程式の研究へフィードバックさせ,相互的な発展を目指していきたい。
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