発達障害は、特異な機能障害をきたすために社会的不利益を被る障害概念と有病率の高さから社会的問題として注目されている。しかし、現在の発達障害の診断、重症度および治療効果判定は、明確な生物学的マーカーが確立していないため、日常生活や集団行動等の場面での観察をもとに保護者からの聞き取りや問診および、心理検査を通した主観的な評価に依存し、信頼性に乏しいといった問題がある。 今年度は発達障害の特異性を書字から抽出するためにペンタブレットとfNIRSを用いて定型発達の成人および小児からデータを取得するとともに、神経発達症の診断を得た小児からも書字と書字中のfNIRSデータを取得した。 その結果、書字動態については、小児から成人になるにつれて速度が速くなることが明らかとなった。また、書字中の誤りから回復して書き始めるまでの、ペンの停留時間は小児の方が延長する結果であった。前頭葉の活動を比較した結果としては、小児と比較して、成人では右側の前頭前野の活動が有意に高い結果となり、書字中の前頭葉は成人になると右側に側性化する結果となった。この動的指標の結果と前頭前野の活動の結果から、スムーズに書字は、右前頭前野の活動と関連することが示唆された。また、定型発達の小児と神経発達症の診断を受けた臨床群を比較した結果、臨床群では、書字時の流暢性の指標とした線の長さは定型発達群と有意差は認めなかったが、脳活動では、臨床群が右前頭葉の活動が有意に低い結果であった。このことから、臨床群はパフォーマンスとしては定型発達群と同様であるが、認知的負荷としては、臨床群の方が高い状態であることが推察された。
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