研究課題/領域番号 |
21J22312
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
原田 知季 宮崎大学, 農学工学総合研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 光熱変換測定 / 非発光再結合 / マッピング測定 / 熱伝導率測定 |
研究実績の概要 |
光ヘテロダイン光熱変位測定(LH-PDM)を構築し、SiとGaAs試料を測定した。Comsol Multiphysicsを用いて文献値を代入し理論計算も行った。実験と計算の変位量の時間変化はよく一致した。金属では電子の拡散を考慮しない、単純な光吸収による発熱で実験と計算が一致するが、半導体材料では光吸収によるキャリアの生成・拡散・再結合を考慮した発熱を計算することで実験と計算が一致した。 面内方向の熱伝導の評価のため、熱源となる励起光と変位を検出する検出光の照射位置を離しながら測定した。熱伝導率の大きい材料ほどより遠くまで大きい変位量が観測された。また、変位量の時間変化は照射位置が離れるほど遅くなった。照射位置を変化させた測定に対しても実験と計算はよく一致した。実験と計算の比較から熱物性を算出できる可能性はあるものの、キャリアの考慮により計算に必要な物性値が多くなったため、熱物性の算出には熱源を固定してキャリア拡散を無視できる測定条件の確立が必要なことが分かった。 LH-PD法は熱伝導率測定法だけでなく半導体の欠陥検査に応用できる可能性がある。XYZステージを用意し、試料の走査を可能にして変位量マッピング測定を実施した。マッピング測定の有用性を確認するため、試料上に鉄板を載せてアニールすることで意図的に鉄汚染した試料を用意した。変位量マッピングにより、鉄板と同じ形状を変位量の差として確認できた。μ-PCD法によるライフタイムマッピングと比較したところ、ライフタイムマッピングでは三角形の形状を観測できなかったため、変位量マッピングはμ-PCD法では観測できない非発光再結合中心の分布を検出できた可能性があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画では、バルク材料の熱伝導率測定法を確立する予定であったが、実験結果の再現には、光吸収、キャリアの生成・拡散・再結合、熱伝導および固体力学についての多くの物性値が必要であることがわかった。当初想定した以上に多くの物性値が必要だったため、熱伝導率を算出する手法は現在までには確立できなかった。一方で、励起光と検出光の照射位置を離すことによる面内方向の熱伝導の測定は次年度以降の予定であったが、前倒しして実施した。熱伝導率の異なる試料を複数測定し、知見は蓄積されてきている。また、マッピング測定については、測定系を構築でき、高感度に非発光再結合中心の分布を評価できる可能性があることがわかった。 以上を踏まえ本研究課題では、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
現在の測定系では、検出光のスポット径が励起光より大きい。この場合、試料の熱膨張の平均的な変位を測定していることが考えられる。検出光のスポットを励起光より小さくすることで、より適切な測定が可能になる。そのため、測定系を改良する。これにより実験と計算がより良く一致することが考えられる。 熱伝導率を算出する手法を確立する。計算に必要な物性値を減らす2つの方法が考えられる。試料表面を黒化処理する方法と試料表面に金属薄膜を形成する方法である。どちらの方法も光吸収と熱の発生を試料表面に固定できるため、光吸収係数とキャリアの生成・拡散・再結合の考慮が不要になり、熱拡散と固体力学の物性値のみで理論計算を実施でき、より適切に熱伝導率を算出できる可能性がある。その上で、変位量の時間変化を、励起光と検出光のスポット間距離と励起光の周波数を変化させながら測定する。 計算においては、物性値を変化させながら計算し、測定した各スポット間距離と各周波数における複数の変位量の時間変化が同時に一致するような物性値を探索することで熱伝導率を算出する。励起光の周波数を変化させることで熱拡散長が変化するため、変位量と周波数の関係から熱物性を評価できる見込みである。Si-ナノピラー/SiGe複合膜は基板上に形成される多層膜材料であるため、簡単な構造の多層膜材料の面内方向の熱伝導率を測定し、膜の面内方向の熱伝導率を適切に評価できるか確認する。その後、ナノピラー間隔を変化させたSi-ナノピラー/SiGe複合膜を用意し、面内熱伝導を評価する。 欠陥評価法としての応用については、Siウエハ面内に欠陥のある試料を用意し評価する。欠陥によって変位量の大きさや時間変化がどう変化するかを議論する。
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