研究課題/領域番号 |
21J22312
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
原田 知季 宮崎大学, 農学工学総合研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 光熱変換測定 / 非発光再結合 / キャリアライフタイム / マッピング測定 |
研究実績の概要 |
今年度はSi-NP(ナノピラー)/SiGe複合膜の評価を実施した。熱伝導と電気伝導のナノ構造のサイズによる変化について知見を得るため、ナノピラー(NP)間隔を変化させた複合膜を用意した。直径13 nm、高さ100 nm のNPを13、27および47 nmの間隔で作製した。 複合膜の熱伝導率は3オメガ法により、面内、面直方向ともにNP間隔が狭いほど小さい結果が得られた。これは、NPがフォノンを散乱させたためである。 前年度に光ヘテロダイン光熱変位(LH-PD)法の装置の構築と、数値計算を実施し、LH-PD信号には、光吸収係数、キャリア移動度、キャリアライフタイム、バンドギャップ、熱拡散率、ヤング率、ポアソン比、線膨張係数といった様々な物性値が関係することがわかっている。そのため、複合膜の電気伝導に関わるキャリア物性をLH-PD法で評価するには工夫が必要である。 2つの実験を実施した。1つ目は複合膜にそのまま励起光を照射した測定、2つ目は複合膜表面の一部にAl膜を形成し、Alに励起光を照射した測定である。1つ目の測定では、複合膜に光励起キャリアが生じ、拡散し再結合する際に生じた熱による膨張がLH-PD信号となる。2つ目の測定では、Alが光吸収して発熱し、複合膜へ熱伝導した結果として信号が得られる。2つの測定結果を比較することで、多くの物性のうち、光吸収、キャリア移動度およびキャリアライフタイムとそれ以外の物性値の切り分けが可能になった。数値計算との比較から、NP間隔27 nmのとき、キャリアライフタイムが長いことがわかった。キャリアライフタイムはキャリアの拡散長に関係し、長いほど電気伝導に良いことが考えられる。熱電素子の性能は熱伝導率に反比例し、電気伝導率に比例するため、NP間隔27 nmの複合膜の性能が高い可能性があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であったSi-NP(ナノピラー)/SiGe複合膜の熱伝導率測定は、当初の計画とは異なるものの3オメガ法により測定できた。その上、これまで他の手法では測定できなかった電気伝導に関わるキャリアライフタイムを、光ヘテロダイン光熱変位(LH-PD)法を用いて評価できた。これは、LH-PD法が当初想定していたよりも、光吸収、キャリア移動度、キャリアライフタイム、熱拡散率、ヤング率およびポアソン比といった様々な物性に敏感であったためである。想定外の部分はあったものの、熱電変換材料には熱伝導率と電気伝導率が重要であるため、電気伝導に関わるキャリアライフタイムを評価できたことはLH-PD法の測定手法としても、複合膜の物性評価としても進展であった。以上を踏まえ本研究課題では、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
熱電変換材料の性能は熱伝導率と電気伝導率が重要である。前年度までに、複合膜の熱伝導率の異方性と電気伝導率に関わるキャリアライフタイムを明らかにした。一方で、キャリア移動度については測定できなかった。キャリア移動度は電気伝導率に直結する重要な物性のため、評価する必要がある。 キャリア移動度の評価のため電界を印加しながらLH-PD測定を実施する。これまでのLH-PD法では外部から電界を印加することなく測定してきたため、キャリアの拡散についての情報が得られ、キャリアライフタイムの情報が得られた。外部から電界を印加することで、キャリア移動度に応じてキャリアが移動するため、電界の大きさとLH-PD信号の変化からキャリア移動度を算出できる可能性がある。 申請時点で、ナノ構造のないSi基板においては外部からの電界の大きさに応じてLH-PD信号に変化が現れている。理論計算との比較からキャリア移動度を算出できる見込みである。Si基板で手法を確認した後、複合膜に同じ手法を適用し、キャリア移動度を算出する。 また、LH-PD法は、マッピング測定が可能であり、非発光再結合中心を検出する半導体の検査法としても活用可能である。現状では励起光の波長が808 nmのため、808 nmの光を吸収する材料を測定可能である。これに355 nmの励起光を追加し、パワー半導体材料として注目されているGaNやSiCといった材料の検査法に利用する。GaNやSiCは欠陥により歩留まりが改善せず、コストの問題があり、結晶品質向上が求められている。非発光再結合中心のマッピングにより結晶品質の改善の知見を得られる可能性がある。 本年度は、以上の複合膜のキャリア移動度測定とパワー半導体用材料の非発光再結合中心の検査を実施する計画である。
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