下水処理場からの放流水中に生残する細菌の種類やその薬剤耐性についての情報は少なく,放流された環境中に耐性菌の生残性についてはわかっていない。また,処理過程で除去できなかった耐性遺伝子が環境中に放流されることによって,環境中に存在する非耐性菌が耐性遺伝子を取り込むことによる薬剤耐性化も想定された。そこで,下水処理水が流入する河川で自然由来の大腸菌が薬剤耐性を発現していると想定した実験系を構築し,感受性大腸菌の薬剤耐性発現のルートと薬剤耐性伝播のメカニズムを解明した。まず,下水処理場の塩素消毒済の下水処理水から大腸菌,まだ河川水から感受性大腸菌を単離した。メンブランフィルターで接合伝播実験を行った。次に,滅菌済みの河川水と付着藻類を栄養物として,自然環境を模擬する接合伝播の実験を行った。培地での実験や模擬河川での実験のいずれでも,プラスミドの結合性伝播が確認された。栄養豊富な培地での接合実験と比較して,滅菌した河川水と付着藻類を用いた接合実験では,培養温度と培養時間が同じ条件下で伝播率が低下した。培養温度を下げた後,同じ培養時間ではプラスミドの接合が見られなかったが,ドナー株とレシピエント株の接合時間を延長した後,プラスミドの接合伝播が確認された。細菌の生存環境が厳しくなったとしても,細菌同士の接触時間を増やすことで,プラスミドが細菌間での伝播を達成することができた。本研究では,下水処理水中にはESBL産生大腸菌が生残し,処理先河川の感受性大腸菌に伝播する可能性が明らかになった。研究期間全体を通じて,指導教員と共著で1報の査読付け学術論文を発表し、2件の国内学会での口頭発表を行った。
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