研究課題
現在まで、DNA・RNAと蛋白質の解析技術の飛躍的発展に伴い、多くの知見が集積している。しかしながら、脂質、特に生体膜脂質二重層の内側に局在する脂肪酸に関しては解析技術が少なく未知の点が多い。申請者らは急速凍結・凍結割断レプリカ標識(QF-FRL)法の開発によって膜脂質を特異的に標識することが可能となり、生体膜脂質の微細分布解明に成功した。しかしこのQF-FRL法が識別するのは膜脂質の“親水性頭部”の違いであるのに対し、 “疎水性尾部”の違いを明らかにできなかった。またQF-FRL法以外の方法によっても、疎水性尾部を標識することは困難であった。そこで本研究では、QF-FRL法の改良により逆転凍結レプリカ脂肪酸標識法を開発し、生体膜における脂肪酸分布をナノレベルで解析する。近年、脂肪酸の中でも不飽和脂肪酸が、様々な生理機能に影響することがわかってきた。しかしその機序は不明である。本研究では逆転凍結レプリカ脂肪酸標識法の開発によって、疾患及び疾患改善と、脂肪酸代謝及び摂取との関連の解明を目的としている。細胞培養中にアルキン化した脂肪酸を投与することにより培養細胞あるいは組織に取り込ませ、それぞれの脂肪酸が細胞のどの部位から取り込まれ、その後どういう経路をたどり最終的に細胞内のどの部位に局在するのかを明らかにし、各種脂肪酸が持つ生理活性発現機序の解明を目指す。前年度は、培養組織の培養液中にアルキン化不飽和脂肪酸を入れ細胞内に取り込ませ、そのアナログが本来の内在性脂質と同様の性質を持つことを確認し、クリックケミストリー法により不飽和脂肪酸を標識することに成功した。今年度は、急速凍結・凍結割断レプリカ標識(QF-FRL)法の改良と並行し、オレイン酸以外のリノレン酸、リノール酸、アラキドン酸など様々な種類の脂肪酸においても同様の標識局在検索を試みた。
3: やや遅れている
本研究では、脂質の“親水性頭部”を標識することができるQF-FRL法の改良により、“疎水性尾部”の違いを認識することができる逆転凍結レプリカ脂肪酸標識法を開発し、生体膜における脂肪酸分布をナノレベルで解析することを最終目的としている。前年度のアルキン化オレイン酸(1価不飽和脂肪酸)を用いた脂肪酸標識の成果を受けて、今年度は、その他脂肪酸においても標識方法を確立するために、アルキン化オレイン酸以外のリノレン酸、リノール酸、アラキドン酸など様々な種類の脂肪酸においても同様の標識局在検索を試みた。アルキン化脂肪酸を哺乳類培養細胞に取り込ませた後、アルデヒドで固定しbiotin-azideと反応させることにより、蛍光標識した。しかしながら、それぞれの脂肪酸における最適な条件を検討することに計画時よりも時間を要し、今年度も終了できていないのが現状である。また、計画時における令和4年度の計画である急速凍結・凍結割断レプリカ標識(QF-FRL)法の改良では、技術的な問題が頻発したことにより、技術改良の途上である。多種脂肪酸の標識法確立とQF-FRL法の改良とを並行し、今後も最適条件の検討を継続する予定である。
本研究では、脂肪酸分布解析技術開発のため、脂質の疎水性領域を露出することができる「逆転凍結レプリカ脂肪酸標識法」を開発・確立する。基本的には従来のQF-FRL 法を応用し、凍結割断後、エッチングすることでリン脂質の親水性頭部に面した氷を昇華させ、親水性頭部を露出させる。その後、白金と炭素を蒸着すると疎水性の脂肪酸がむき出しになったレプリカ薄膜が形成される。脂肪酸の標識にはクリックケミストリー法を用い、アルキン化した脂肪酸(オレイン酸、リノレン酸、リノール酸、アラキドン酸など)を細胞内に取り込ませレプリカ膜を作製し、biotin-azide と反応させることにより、細胞膜および細胞内小器官での脂肪酸の分布を微細レベルで明らかにする。今後の計画では、蛍光顕微鏡を用いた各種脂肪酸の最適条件検討を継続しながら、また、逆転凍結レプリカ脂肪酸標識法における最適条件の確立を行う。また、その後、脂肪酸を投与してから急速凍結する時間を変えることにより、経時的に細胞内局在部位、微細分布の変化を明らかにするための方法を確立する。研究過程における技術的な問題に対して、生化学的・物理学的アプローチによって打開を試みる。今回の研究で得られる成果は脂肪酸の機能解明に大きく貢献し、生命機能解明への新たなアプローチを提供すると期待される。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Biochim Biophys Acta Mol Cell Biol Lipids.
巻: 28 ページ: 159184
10.1016/j.bbalip.2022.159184.