近年の銀河系内の観測から、太陽質量程度の若い星の半数以上は連星であることが明らかになっている。そのため、太陽のような単一星の形成進化過程のみならず、連星の形成進化過程を理解することは星形成過程の理解にとって非常に重要である。本研究の目的は、近年の観測が示す現実的な星形成環境で連星の形成条件および連星の回転構造の時間進化を解明することである。 本年度は、前年度に引き続き乱流と磁場を持つ分子雲コア同士の収縮・衝突過程を3次元非理想磁気流体シミュレーションを用いて長時間計算した。その結果、分子雲コアの初期磁場強度の違いによって角運動量輸送の効率が変化し、連星や多重星のパラメータ(分裂数、連星間距離、回転軸など)が大きく変化することがわかった。また、本研究のこれまでの成果から、現実的な星形成環境における連星の形成進化過程には磁場が重要な役割を果たすことが明らかになった。さらに、分子雲コアの熱エネルギーと重力エネルギーの比の違いによって初期質量降着率が変化し、連星や多重星のパラメータの決定に大きな影響を与えることもわかった。これらの成果は、分子雲コアが剛体回転を持つ場合の先行研究と整合的である。 さらに、分子雲コアの磁気エネルギーが分子雲コアの乱流エネルギーに比べて小さい場合、原始星近傍から単極アウトフローが駆動するという興味深い現象を発見した。単極アウトフローは星形成領域の観測で実際に発見されている。そのため、この予期せぬ発見は観測結果を説明しうる非常に重要な成果である。本成果をまとめた論文は国際誌にすでに受理されている。一方で、分子雲コアの磁場のエネルギーが乱流のエネルギーと同程度の場合は双極アウトフローが駆動することもわかった。原始星近傍から駆動するアウトフローのこのような形状の違いは分子雲コアの磁場強度と乱流強度を推定する指標となることが本成果により初めて明らかになった。
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