研究課題/領域番号 |
22J11944
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
中村 南美子 鹿児島大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | シカ / 電気柵 / 色覚 / 視野 / 嗅覚 / オペラント条件付け / 跳躍 / 通り抜け |
研究実績の概要 |
本研究では,シカに対する電気柵の侵入防止効果を高めるための基礎的知見を得ることを目的として,行動学的手法により柵の認識に関わる飼育キュウシュウジカの視覚および認知能力を明らかにするとともに,その視覚心理を利用した侵入防止柵の開発へ向けて試験を進めている. キュウシュウジカの成獣4頭(オス2頭,メス2頭)を飼育し,シカ飼育舎および屋外運動場に制作した実験装置において試験を行った.①草地におけるシカの色識別能力を検討した.2頭のシカはともに牧草色である黄緑(7.5GY)の色票と同時に提示された白,紫,青紫,青,青緑,緑,黄緑(10GY),橙,赤および赤紫の色票をそれぞれ識別できた.一方,黄緑(5GY)および黄については2頭とも識別できなかった.これらのことから,草地に電気柵を設置した場合,シカにとって識別し難い電線の色が存在する可能性が示された.②シカの嗅覚刺激の識別能力を検討した.衝立の後方左右に飼料入りの飼槽および空の飼槽をランダムに設置したところ,4頭のシカはいずれも嗅覚刺激のみによって前者を選択できたことから,その優れた嗅覚が示唆された.③柵の認識に関わるシカの前方視野を検討した.シカ2頭が高さの異なるネット柵(高さ30~120 cm)を跳躍する際の身体部位の垂直位置ならびにセグメント角度の推移から,その両眼による前方視野は下方向に広がっている可能性が示された.そして,シカにとって柵の視覚情報(高さや奥行きなど)の獲得には踏切直前の接近時における頭部位置の調節が必要であると考えられた. 草地に設置された電気柵内へシカが侵入する過程において,柵の認知には感覚(視覚,触覚,嗅覚)が重要な役割を果たすと考えられる.本研究の結果はシカが優れた視覚と嗅覚を用いて柵を認識しており,跳躍ではなく下部から通り抜ける行動に関しては,その下向きの視野が関係していることを示唆するものとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オペラント条件付けを用いた色覚および嗅覚の試験では,報酬と刺激の関係を連合学習させるための学習訓練が必須であり,本試験においても実験設定上,1日当たり1セッションしか実施できないため,多くの時間を要した.跳躍試験については,実験装置の制作から供試動物の馴致,本試験に加えて,録画した動画データから抽出された30 cm毎という非常に多くの静止画を基にシカの身体部位3点の垂直位置とそれらがなす角度の測定が必要であった.一方,それらの遂行において大きな問題が起こることはなく,計画していた①~③の試験の進捗は想定通りであり,いずれにおいても十分にデータを得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後,シカが電気柵の通り抜けを断念する侵入防止柵を開発するため,併用柵(電気柵に物理柵を組み合わせたもの)の最適な張設条件を明らかにする.これまで試験に用いてきた飼育個体(2~4頭)を供試することとし,それら4個体の飼育管理を継続する.場所については屋外運動場における跳躍実験装置で行うこととし,実験装置に設置する柵の制作,実験手順の確定および供試動物の装置への馴致などの準備が完了次第,本試験へ移行する. これまでと同様に,飼育環境を含め動物福祉に十分に配慮して実施するとともに,鹿児島大学動物実験委員会の承認を得て行う.
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