本研究の目的は、高齢者の自立した移動支援に寄与するために、モバイル端末内ナビゲーションアプリ(以下、ナビアプリ)活用時の視線行動の特徴、およびナビアプリ活用能力に関連する因子や習熟度との関係を明らかにすることである。本年度は、昨年度実施した経路ナビゲーション課題(RNT)の結果を、健常高齢者20名(平均年齢73.5±8.1歳、女性75.0%)および若年成人16名(25.3±3.7歳、女性62.5%)にグループ分けを行い、現実世界の経路ナビゲーション能力の指標として所要時間や立ち止まり回数、ルートエラー回数の指標を比較検討した。さらに、高齢者の効率的な経路ナビゲーション歩行に関連する因子を探索的に検討した。結果として、高齢者は若年者と比較しナビアプリ歩行時に立ち止まりやルートエラー回数が有意に増加し(p < .05)、固視時間やサッケード角度が有意に減少していた(p < .05)。また、高齢者における効率的なナビゲーション歩行には歩行速度や認知機能に加えて、生活範囲やモバイル機器の習熟度が有意に関連していることが明らかとなった(p < .05)。高齢者におけるアプリを用いたナビゲーション歩行の特徴として、スマートフォン画面と実世界の視点切り替えが困難であることや、有効視野の減少が示唆された。高齢者のナビゲーション支援では、自己中心的戦略を活用することが有効である可能性があり、錯触力覚技術の活用などが今後重要となることが示唆された。さらに、高齢者の効率的ナビゲーションを維持するためには、身体・認知機能低下予防だけでなく、生活空間の維持やモバイル機器習熟度の向上を図るべきである。これらの結果について、本年度は学会発表および論文発表を実施した。
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