本研究では,不飽和土の蒸発特性に加え,保水・浸透特性を同時計測できる手法を開発し,蓄積した計測データに基づいて,裸地表面および植生面からの蒸発散量を推定するための数理モデルを構築した。さらに,実斜面での土中水分量のモニタリング結果から,降雨後の土中水分量の変動に対する地表面蒸発量の影響を確認するとともに,Monte Carlo Simulation(MCS)を実施し,土中水分量の予測を行った。 数理モデルの構築に際して,不飽和土の蒸発特性と同一の供試体から得られた保水・浸透特性が必要であったことから,それらを同時計測できる手法を開発した。結果,開発手法により,同一供試体から水分特性曲線,不飽和透水係数,蒸発効率(蒸発特性を評価するパラメータ)を同時に計測できるようになり,計測結果の妥当性に併せて,この手法が砂質土に対して特に有効であることを確認した。さらに,蒸発効率に関するデータ分析方法の改良にも取り組み,風速の制御などを必要としない,従来よりも簡易な蒸発効率の計測手順を提案した。以上の手法を用いて蓄積した計測データから,土の基本的物理量を用いて推定される土中の間隙構造に基づき,蒸発効率を評価できる数理モデルを構築した。 降雨後の斜面における土中水分量の予測手法の確立に向けて,機械学習などの手法を活用した土中水分量の予測を行った。結果,MCSにより学習データのみならず,未学習のテストデータについても実斜面での土中水分量の変動を良好に予測できることを確認した。併せて,現地斜面での土中水分量の計測データの考察に基づいて,降雨後の土砂災害に対する警報解除の定量的な基準設定には,地表面蒸発量の考慮が重要であることを示した。 これらの成果は,地表面蒸発量推測手法の開発に向けて,不飽和土の蒸発特性に関する計測結果の信頼性向上と蓄積,および数理モデルの物理的根拠の担保に意義を持つものである。
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