魚類の耳石における微量元素比のばらつきに及ぼす遺伝と環境(水温)の影響をそれぞれ定量化することを目的として、主に飼育実験と表面分析からなる研究を実施した。メダカ属魚類をモデルとして、両親が同じ子世代を複数の水温区で飼育して、個体間および水温区間での耳石微量元素比を比較した。2023年度は、2021~2022年度に得られた成果に基づいて、耳石Sr/Ca比のばらつきの実態を明らかにすることを目的として、近交系個体を親魚とした飼育実験を行い、full-sib個体から得られた耳石の微量元素分析を実施した。親魚は、基礎生物学研究所メダカバイオリソースプロジェクトによるHdrR-II1系統のミナミメダカを用いた。また、2021年度と同様に、野外にて沖縄県産のミナミメダカを採集した。すべての個体を1か月ほど一定水温で飼育して馴致した後、これらの個体を親魚として、2021~2022年度と同様の共通環境実験を行った。ペアごとに受精卵を得て、孵化仔魚を水中の微量元素を一定に調整した水で飼育した。孵化後約60日後に実験個体を採集して、標準体長と体重を測定・計量した。また、左右の耳石扁平石を摘出して、耳石重量を計量した。電子線マイクロアナライザを用いて耳石中に含まれるカルシウム(Ca)とストロンチウム(Sr)の濃度を測定した。その結果、耳石Sr/Ca比は個体群間で大きく異なり、そのばらつきの大きさは野生個体でより顕著であることが明らかとなった。
本研究では、耳石Sr/Ca比を、家系間および地域個体群間、さらには近縁種間で得たデータと比較することで、耳石Sr/Ca比のばらつきが家系間、地域個体群間および種間でどのように異なるのかを検証した。これらの成果は、水産学分野で汎用されている、耳石微量元素比に基づく環境履歴の復元手法の精度向上において、きわめて重要な知見を提供する。
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