1)新鮮凍結肩標本8肩を対象に,腱板筋を亜区画ごとに牽引した肩関節モデルを用いて,異なる腱板断裂サイズに対する上腕骨頭の上方偏位を計測した.上方偏位が観察された断裂モデルにおいて,残存腱板筋および亜区画の代償を牽引力増加によって再現し,残存筋亜区画の代償的作用について検証した.その結果,棘上筋+棘下筋腱断裂モデルにおいて,残存小円筋+肩甲下筋亜区画の牽引力増加により,上腕骨頭の上方偏位を断裂なしモデルと有意差のないレベルまで制御できた.しかし,肩甲下筋腱上1/3を含めた断裂モデルでは,残存筋代償モデルにおいても有意な上方偏位が観察された.以上から,棘上筋・棘下筋腱断裂では横断面における残存小円筋+肩甲下筋のフォースカップル増強を目的とした保存療法で骨頭制御が保持・改善される可能性が示唆された.対して,肩甲下筋腱を含む断裂では残存筋の代償作用は不十分であり,腱板再建を目的とした手術療法が勧められることを示唆する重要な知見となった.本研究成果は国際雑誌に投稿中である. 2)新鮮凍結肩標本8肩を対象に,各腱板筋亜区画からの出力,あるいは肩関節外転角度の変化による腱停止部への張力分布の変化について,3次元画像解析を用いて検証した.その結果,各腱板筋亜区画から腱停止部への張力分布は異なり,外転角度によって張力分布も変化した.特に棘上筋では,前方区画牽引時は大結節上面の張力が高く,後方区画牽引時は大結節中面の張力が高い特徴を呈した.また外転角度の増加に伴い,大結節上面の張力が低下し,結節間溝および大結節中面の張力が増加した.これらの腱板筋亜区画の肩関節位置に対する異なる張力分布の変化から,手術療法において,各腱板筋亜区画の構造に基づいた腱板構造の再建が,腱板筋亜区画の機能的作用を復元する上で重要であることが明らかとなった.本研究成果は国際学会(ORS 2024)において発表した.
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