研究課題/領域番号 |
21J00655
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
福冨 雄一 東京都立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / 模様 |
研究実績の概要 |
動物の模様には多様なパターンがあり、それは様々な分類群で見られる。そのパターン形成メカニズムを明らかにすると、どのようにして多様なパターンが進化してきたかを理解できるのではないだろうか。メカニズム解明には、「模様のできる範囲がどのように決まるのか?」を明らかにすることが鍵である。理論レベルでは、分子の拡散によって模様の形成される範囲が決まると考えられてきており、促進因子と抑制因子の2種類の拡散因子が関与すると想定される場合もある(Kondo and Asai 2006 Nature)。本研究では、拡散因子による模様形成を研究するモデルとして、ミズタマショウジョウバエの翅の水玉模様を用いる。ミズタマショウジョウバエでは模様形成の促進因子としてwingless遺伝子が同定されている(Werner et al. 2010 Nature)が、Winglessタンパク質の拡散の必要性には検証の必要があり(Alexandre et al. 2014 Nature)、抑制因子については同定されていない。研究の目的としては、促進因子と抑制因子の2種類が拡散して模様形成範囲を決めているということの実験的な証明を目指している。 本年度は、「模様のできる範囲がどのように決まるのか?」という問いに取り組むことが模様研究のフロンティアをいかにして切り開くのかについて執筆していた論文が公表された。また、模様形成に対するWinglessタンパク質の拡散の必要性については、キイロショウジョウバエを用いて推定し、その結果を学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抑制因子の候補としてはDWnt4遺伝子が考えられ(Koshikawa et al. 2015 PNAS)、その機能の解析を目指してきた。CRISPR Cas9システムを用いたノックアウトを計画し、インジェクションを行った当該世代で観察しようとしたが、表現型に異常をきたす個体を得ることができなかった。それゆえ、gRNAとCas9タンパク質(CRISPR Cas9システムに必要なコンポーネント)をそれぞれ発現させるトランスジェニック系統を作成して掛け合わせてノックアウトする、という方針に切り替えた。 拡散因子の拡散具合は温度に依存することがあり、それが模様の範囲の決定に影響することも考えられる。温度と模様の範囲の関係性を調べることも「模様のできる範囲がどのように決まるのか?」の解明に必要と考えたので、ミズタマショウジョウバエを用いて模様の範囲と温度の関係性を調べたところ、とある関係性があることがわかった。 DWnt4遺伝子のノックアウトに関しては計画よりも遅れているが、温度と模様の範囲がとある関係性を見せる、という計画当初では予想外の結果が得られた。そのため、総合的に研究の進捗は概ね順調だと個人的には思っている。
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今後の研究の推進方策 |
CRISPR Cas9システムによるノックアウトを行うため、gRNAを発現する系統とCas9タンパク質を発現する系統を作成する必要がある。トランスジェニック系統作成のためにはコンストラクトの作成と胚へのインジェクションを行わなければならないが、それらの工程はすでに完了している。そのため、今後の方策としてはトランスジェニック系統の確立とそれらの掛け合わせを予定している。 温度と模様の範囲の関係性を調べて得られた結果については、国際誌に論文として発表することを計画している。また、Winglessの拡散の模様形成に対する必要性に関しては、ミズタマショウジョウバエで検証する必要がある。野生型のwingless遺伝子を、人工的にNeurotactin (細胞膜上に係留されるタンパク質)とWinglessを融合させたタンパク質NRT-Wgをコードする遺伝子に置換した個体を作成しようと計画している。
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