本研究者が研究に従事しているT2K実験は、素粒子の1つであるニュートリノを茨城県東海村に位置するJ-PARCの陽子加速器を用いて人工的に生成し、295 km離れた岐阜県のスーパーカミオカンデで観測することで、飛行中にニュートリノの種類が変わるニュートリノ振動という現象を観測している。そしてニュートリノと反ニュートリノの性質の違いを示すCP対称性の破れを探索することが目的の長基線加速器ニュートリノ振動実験である。CP対称性の破れをより精度よく探索するためには統計誤差と系統誤差を削減する必要があり、特に系統誤差の削減にむけて、様々な前置検出器が用いられている。 本研究者はT2K実験の前置検出器の1つであるWAGASCI/Baby MIND検出器を用いて振動前のニュートリノを観測し、そのニュートリノと原子核の反応を精密に測定することで、原子核とニュートリノの反応断面積の測定を行っている。現在、T2K実験における主要な系統誤差は原子核とニュートリノの反応の不定性に起因するものであり、ニュートリノと原子核の反応を測定することは重要である。本解析において対象とするニュートリノ原子核反応はミューニュートリノが原子核と反応し、終状態にミューオンと荷電パイ中間子を伴う事象である。当該年度において主にWAGASCI/Baby MINDでの解析を遂行するための事象選別手法の開発をシミュレーションを用いて行った。
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