生殖休眠とは、昆虫の成虫が越冬のため生殖器官の発達などを抑制し、生存に関与しない機構を省エネルギー化した生理状態のことである。生殖休眠の誘導には日長や温度といった環境シグナルが用いられる。昆虫はほかの動物と同様に概日リズムをもち、リズムの形成には時計遺伝子が関与している。リズムを形成するため、時計遺伝子が光を用いることから、休眠と時計遺伝子の関与も示唆されている。本研究では、時計遺伝子の研究が最も進んでおり、野外での休眠が報告されているオウトウショウジョウバエとノハラカオジロショウジョウバエの休眠系統と非休眠系統を用いて、時計遺伝子の休眠への関与や休眠の地理的変異への関与を調査してきた。昨年度のオウトウショウジョウバエやノハラカオジロショウジョウバエの振動パターンの結果から、特に時計遺伝子CG3224に着目してきた。加えて、ノハラカオジロショウジョウバエ日本集団の表現型と全系統のゲノム解析の結果から、時計遺伝子CG3224は休眠の地理的変異にも関与している可能性が示唆された。キイロショウジョウバエを用いた先行研究で、CG3224のアイソフォームが休眠に関与している可能性が示唆されたため、本研究でもノハラカオジロショウジョウバエの休眠系統と非休眠系統でアイソフォーム振動パターンの比較も行い、先行研究と同様の傾向があることが明らかになった。これらのことから、CG3224は休眠の地理的変異を引き起こす原因遺伝子の可能性が強く示唆された。
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