研究課題/領域番号 |
22J23537
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
米岡 克啓 東京都立大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
キーワード | シダ植物 / 独立配偶体 / フローラ調査 / 生物多様性 |
研究実績の概要 |
シダ植物は胞子体と配偶体が完全に独立に生育しうることが、その大きな特徴である。シダ植物の多様性を理解するためには、胞子体と配偶体それぞれについて調査・研究を進める必要がある。しかし、配偶体は微小で形態的特徴に乏しく、形態に基づく種同定が困難だったため、胞子体については個々の種の詳細な分布が既に得られている日本国内においても、配偶体の地理分布や多様性は殆ど分かっていなかった。そこで本研究では、野外で長期間に渡って配偶体世代を維持する「独立配偶体」を足掛かりとして、日本列島におけるシダ植物の配偶体フローラ(どのような種がどこに分布しているか)の一端を解明し、配偶体世代も含めたシダ植物の多様性に対する理解を深めたいと考えた。本研究で見出される配偶体の大部分は,絶滅危惧種や日本新産種のシダ植物である.例えば,2022年度に八重山諸島で行った調査では,コケシノブ属,タキミシダ属,ツルキジノオ属の3つの分類群から10種の独立配偶体を見出すことに成功し,そのうち少なくとも5種は日本新産のシダ植物であった.相次ぐ独立配偶体の発見は,私たちが野外の配偶体の多様性を過少に評価していることを暗示している.配偶体世代は,シダ植物の生活環においては生殖を司る役割を担う.すなわち周囲に生育する近縁種の胞子体から生じた配偶体との交雑を通じて,種多様性の形成に寄与できるため,日本列島全体でどのような種のシダが独立配偶体として長期間にわたって野外で生育しているかを調査することは,日本のシダ植物フローラを理解するうえで非常に重要である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究初年の2022年度は、まず初めに日本国内で最もシダ植物の多様性が高い地域の1つである、八重山諸島や小笠原諸島の島々を中心に800点以上の配偶体サンプルの採集を行った。野外で認識可能な配偶体マットに注目してサンプリングを行うことで、認識困難と考えられてきたシダの配偶体であっても、数百サンプルを超えるスケールで採集できることを実証することができた。採集された配偶体マットからDNAを抽出し、葉緑体rbcL遺伝子に基づくDNAバーコーディングを行った結果、これまで日本では胞子体の生育が確認されてこなかったような種類のシダ植物を、独立配偶体として次々見出すことに成功した。この結果は,日本の亜熱帯地域の島々にもっと南の熱帯・亜熱帯地域に生育しているようなシダ植物が独立配偶体として生育している、とする研究開始時に設定した仮説を支持するものであった。現在、分子種同定の正確性を再検討している段階にあるため具体的な種名の言及は避けるが、旧熱帯、南太平洋地域に分布しているタキミシダ属やコケシノブ属のシダ植物の一部で、広範な配偶体分布をもつ種が存在することが明らかになってきた。この研究成果の一部は2022年度日本植物分類学会の口頭発表を通じて発表された。
|
今後の研究の推進方策 |
研究2年目の2023年度は,引き続き日本列島各所で配偶体のサンプリングを継続する.特にこれまで配偶体フローラを全く調査してこなかった,九州地方,東北地方,日本海側地域,北海道,日本アルプス地域などは優先して調べていく必要がある.地域の独立配偶体集団の形成プロセスを推定する研究は,現在奥多摩地域で大規模なコドラートプロットを設定し,網羅的な採集を行っている途中である.今年度中に採集した全サンプルを培養し,MIG-seq法によるクローン解析まで行い,これまで明らかになっていなかった配偶体の集団遺伝構造と形成プロセスに対する成果を2024年度をめどに学会と論文で公開する予定である.研究を続ける中で幅広い分類群から配偶体形態のデータが蓄積され続けた。その結果,多様なニッチ軸に対する配偶体の形態進化のパターンを議論できるようになったため,2023年度以降はこれまで独立配偶体を形成できると認識されてこなかった分類群について,配偶体形態と機能に関する知見の更なる蓄積と発表を目標に研究を推進する予定である.
|