タンパク質分解標的キメラ(PROTAC)を用いた化学的タンパク質ノックダウン技術は、内因性ユビキチン-プロテアソーム系(UPS)をハイジャックして疾患関連タンパク質を分解する強力な戦略である。近年、最適な低分子リガンドが存在しないタンパク質へPROTACを適応するため、標的リガンドにオリゴヌクレオチドを利用したPROTACが開発されてきた。核酸型PROTACは、POIに対する結合配列が明らかであれば、容易にリガンド設計・合成が可能であるという利点があり、疾患に関与しているにも関わらず、最適なリガンドが存在しない転写因子(TF)などのタンパク質に対する適応が期待できる。 我々は、本研究においてエストロゲン受容体α(ERα)をTFのモデルとしたデコイ核酸型PROTACとして、LCL-ER(dec)を開発した。LCL-ER(dec)は結合配列、E3リガーゼ、UPS依存的にERα分解活性を示し、転写因子分解誘導剤としての有用性が示された。 しかし、これまでに開発されたデコイ型PROTACのほとんどは、天然のDNA配列を利用しており、生体内のヌクレアーゼにより分解されることが懸念される。また、いくつか報告されているデコイ核酸型PROTACはいずれも、細胞内にトランスフェクションにより導入されているため臨床応用に適していない。そこで本研究では、LCL-ER(dec)に対して化学的安定性の向上を志向して、構造安定化を狙ったT4ループ構造の導入およびホスホロチオエート修飾核酸を導入したPROTACを開発した。さらに、デコイ核酸型PROTACのもう一つの課題である細胞膜透過性の低さに対しては、細胞膜透過性ペプチド(CPP)を利用した細胞内導入を検討した。本年度は、デコイ核酸に対しての修飾および細胞内導入ユニットを連結した分子の設計・合成および、物性と各種活性評価を行った。
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