研究課題
創部への細菌定着と感染の間に位置する臨界的定着では、組織への細菌侵入に対する免疫反応が起きているが、肉眼的な感染徴候がないために治療開始が遅れ、致死的な感染に移行する可能性が高い。本研究では創傷環境の最適化により、臨界的定着の原因のひとつと考えられる創周囲皮膚細菌叢との類似性が低いディスバイオシス状態の創部細菌叢を制御し、臨界的定着を予防する新たな介入の確立を目指す。ディスバイオシス状態の創部細菌叢が形成される原因は明らかになっていないため、まずは創部状態に応じて変動する創傷滲出液中のアミノ酸にターゲットを絞り、調査した。はじめに、アミノ酸解析に適した非侵襲かつ簡便なサンプル採取方法を確立するため、ラット創傷モデルを用いて検討した。ラット2匹の背部皮膚に全層欠損創を作製し、創作製後1日目の創部洗浄の前後に創底からスワブサンプルを採取した。スワブから創傷滲出液を抽出し、高速液体クロマトグラフィーによりアミノ酸16種を測定した。アミノ酸総量における各アミノ酸の割合である相対アミノ酸量を求め、アミノ酸毎に2匹間の差を算出した。その結果、アミノ酸16種における差の平均は、洗浄前が1.15%、洗浄後が0.49%であり、洗浄前後ともにスワブによって再現性高くアミノ酸を測定できる方法を確立した。次に、重症難治性創傷患者18名から細菌叢およびアミノ酸の解析用のスワブサンプルを採取した。その結果、創部-創周囲皮膚間の細菌叢の類似性が高く(非類似度指数:0.35)、治癒傾向を示す症例では、創傷滲出液中のアミノ酸はヒスチジンが最も多かった(相対アミノ酸量:36%)。以上より、臨床検体であっても創傷滲出液中のアミノ酸が測定可能な手法を確立できた。今後は臨床調査で得たデータをもとにディスバイオシスの原因となるアミノ酸候補を特定し、動物実験でディスバイオシスの形成メカニズムの解明を目指す。
2: おおむね順調に進展している
本年度は創傷環境因子としての創傷滲出液中のアミノ酸を非侵襲的に測定する手法を確立し、ディスバイオシス状態の細菌叢が形成される原因を明らかにするための臨床調査を実施した。サンプル採取方法について多くの試行錯誤を実施し得られた結果であり、これ以降に続く研究の基盤を構築できたことから、おおむね順調に経過していると判断した。
臨床調査において患者からサンプルおよびデータを収集することができたため、予定通り引き続きデータ解析によるディスバイオシスの形成原因の候補アミノ酸の特定および動物実験によるディスバイオシス状態の細菌叢の形成メカニズムの解明を進める。
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