研究課題
創部への細菌定着と感染の間に位置する臨界的定着では、組織への細菌侵入に対する免疫応答が起きているが、肉眼的な感染徴候がないために治療開始が遅れる。本研究では臨界的定着の原因のひとつと考えられる創周囲皮膚細菌叢との類似性が低いディスバイオシス状態の創部細菌叢を制御するために、創部細菌叢を皮膚常在細菌叢に類似させる新たな臨界的定着の予防介入の確立を目指す。皮膚常在細菌叢中にも病原細菌は存在し、それらが宿主に与える影響は明らかではない。そこで、2023年度は皮膚細菌叢に病原細菌が含まれるモデル動物の開発および病原細菌が創部へ伝播することによる創傷治癒への影響の解明を目的とした。創傷感染の起炎菌である緑膿菌の培養液を含侵した床敷チップ(病原細菌群)とLB 培地のみを含侵した床敷チップ(コントロール群)が入ったケージ内で無菌マウスをそれぞれ14 日間飼育し、チップ中の細菌を皮膚に定着させた。その後、背部皮膚に全層欠損創を作製した。創作製前の背部皮膚および創作製後4日目の創面からスワブサンプルを採取し、細菌叢解析に供した。その結果、皮膚細菌叢と創部細菌叢ともに、コントロール群では緑膿菌が検出されなかったのに対し、病原細菌群では緑膿菌が優勢だった。一方、群間で創部面積に有意な差はなく、創傷治癒は遅延しなかった。本研究において皮膚細菌叢に病原細菌が含まれるモデルにおいて創部を作製した時、創部に病原細菌が伝播すること、さらにその病原細菌が伝播しても創傷治癒は遅延しないことを示唆する結果を得た。これは、無菌マウスにおいて皮膚細菌叢が形成される過程で病原細菌に対して免疫寛容が働き、その病原細菌が創部に伝播しても免疫寛容によって過剰な炎症が抑制された可能性が高い。今後は皮膚および創部組織における免疫細胞の誘導や炎症に関連する遺伝子発現の確認を行う。
2: おおむね順調に進展している
新たな臨界的定着の予防介入を確立するための研究プロジェクトの一部として、本年度は皮膚常在細菌叢中の病原性細菌が創部に伝播することが創傷治癒に与える影響について明らかにした。これは創部細菌叢を皮膚常在細菌叢に類似させる介入を実施する際に安全性の面で重要な観点であり、優先度が高い研究である。本研究によってこれ以降に続く研究の基盤を構築できたことから、おおむね順調に経過していると判断した。
引き続き皮膚常在細菌叢に含まれる病原細菌が創傷治癒に与える影響について解析を進めるとともに、研究計画に沿って2022年度に取り組んだディスバイオシスの形成原因の候補アミノ酸に関する解析を進める。
DNAマイクロアレイ解析の委託費用を計上していたが、研究プロジェクトにおける各研究の優先度に鑑みて実験内容を一部変更し、本解析を実施しなかったため次年度使用とした。2024年度において当初計画していた実験・解析を実施予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) 備考 (1件)
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