ヘムは、生命機能・疾患の両側面で密接に関連する生体内分子である。一方で、ヘムの生体内動態は現在も不明な点が多く、ヘムの生体内挙動を可視化できる強力なヘム検出ツールの開発が望まれている。上記の背景から、本研究では、ヘムによって活性化されて、生体分子をラベル化する化学構造を見出し、新たなヘム検出蛍光プローブを開発した。初年度では、ヘム検出蛍光プローブを合成し、評価を行った。その結果、水溶液中及び生細胞内で蛍光ラベル化が進行したことを確認した。次に、本蛍光プローブを組織イメージング実験へと適応した。マウスにヘム合成誘導剤を経口投与してヘムの生合成を誘導した後、蛍光プローブを脳室内投与し、脳の凍結切片を作成してイメージングを行った。その結果、コントロール群と比べて、ヘム合成誘導群で強い蛍光が検出された。最終年度では、上記のヘム合成誘導群マウスの脳組織切片に、特定の神経細胞種のマーカーを用いて免疫染色を実施し、ヘムの合成が活発となっている細胞種の調査を行った。比較的広範囲でかつ細胞の構造が確認できる形で、蛍光プローブで組織が染色されていることから、ヘムの合成が活発となっている細胞種が多岐にわたることが示唆された。また、本研究で見出されたラベル化反応について、反応機構の解析を実施した。種々の実験の結果から、本修飾反応における活性種はプローブの酸化体であることが示唆された。すなわち、プローブとヘムとの反応でプローブの酸化体が生成し、これを活性種とした生体分子修飾反応が進行していると考えられる。現在、一連の修飾反応に関して、より詳細な機構について調査しており、本研究成果の論文発表を進めている状況である。また、本研究の完遂により、ヘムの生体内挙動解明のための有用な分析手法が不足している現状において、ヘムの生体内挙動・機能の解析に利用できる強力なツールを提供できると我々は考えている。
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