研究課題/領域番号 |
22KJ2590
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
齋藤 真里菜 名古屋市立大学, 芸術工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | メラノプシン / 網膜神経節細胞 / 認知機能 / 注意 / 注意の瞬き / 視知覚 / 心理学 |
研究実績の概要 |
メラノプシンは比較的近年に同定された視物質であり、概日リズムや対光反射、明るさ知覚への関与が知られている。さらに近年では、メラノプシンが受容した光情報が覚醒や警戒、睡眠に影響を及ぼすことが示唆されている。しかし、先行研究の中では覚醒や警戒を調べる指標として眠気尺度が利用されることが多く、認知課題を用いたものは少ない。ここから、メラノプシンの受容した光が覚醒度や睡眠のコントロールに関与していたとしても、ヒトの生活に直結する認知機能との関連はまだ明らかになっていないということが分かる。一方、最近では、メラノプシンが好む青色光への曝露が私たちの認知課題成績を変える可能性が議論されており、これらの研究はメラノプシンと認知との関連を示唆している。 本研究では、メラノプシンの刺激量を選択的に増減させるメタマー刺激を作成して実験を行うことを目的としている。青色光を用いた実験の多くは、色の心理効果との交絡を批判されることが多い。本研究では、メタマー刺激を用いることで色の心理効果の可能性を除外しようと試みた。 実験には、二台のプロジェクタを使って独自に作成した多原色光源刺激装置を用いた。今年度は、この機材を用いて作成したメタマー刺激を背景に、メラノプシン刺激量の大きさが注意の瞬き現象に及ぼす影響を調べる実験を行った。実験結果からは、メラノプシン刺激量がターゲット発見の正答率を変えることが明らかになった。ただし、先行研究ではメラノプシン刺激量の高さが認知課題成績の改善につながると言われていたが、本研究ではむしろ、メラノプシン刺激量が低い方が認知課題の成績が良かった。ここから、メラノプシン刺激量が高ければ高いほど認知課題成績が上がるというわけではなく、「適切なメラノプシン刺激量」であることが、我々の認知機能の成績を上げるのに最も役立つということが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、昨年度に作成した多原色光源刺激装置を使用して実験に用いる刺激を作成した。また、メタマー刺激を背景に注意の瞬き現象を調べるRSVP法の実験課題を作成して実験を行った。予備時実験を通して実験のパラメータを決定し、本実験には実験内容を知らない約20人の被験者が参加した。この実験から得られた結果はこれまでの先行研究の内容を一部追試するものでありながらも、刺激量の大きさによっては必ずしも認知課題の成績が上がるわけではないということが新たに示されており、メラノプシンが覚醒や認知に及ぼす影響の新たな特徴を発見したといえるだろう。本研究計画における最も肝心な実験を実施しその結果を得ることができたという点で、本研究は順調に進展していると言える。 さらに今年度は、当該研究分野で最新研究を行う海外研究室を訪問し、本研究計画について様々な意見をいただいた。ここで得られた意見は実際に実験の中に取り入れることができ、今後も分析の中で活かしていく予定である。また、同様の研究を行う場合の刺激の調整方法などを学んだだめ、今後の実験はこれらの新たな知見を取り入れてブラッシュアップする。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、以下の二つの点を重点的に進める予定である。 まずは、今年度に実施した実験のコントロール実験を行う。実験で用いたメタマー刺激はおおむね同じ色に見える刺激ではあったものの、数名の実験参加者は色の違いに気づいてしまっていた。色の違いの知覚は色の心理効果を誘発し、これが実験の結果を説明する可能性もある。そのため、コントロール実験として、背景の色は僅かに異なるがメラノプシン刺激量が一定の背景刺激を数種類作成して同様の実験を行う。コントロール実験において今年度と同じ結果とならなければ、今年度の実験結果がメラノプシン刺激量の違いによるものであるとより強く説明できることになるだろう。 次に、実験結果の積極的な対外発表を目指す。本研究は国内外を問わず広く注目されている分野である。今年度に得られた結果を国内外の学会で発表することで新たな研究の展開を望めるかもしれない。なお、来年度は夏の国内学会の参加が既に決定している。これに追加して、上記のコントロール実験を含めた研究内容を積極的に発表し、メラノプシンが覚醒や注意に及ぼす影響についてさらに深く考察することを計画している。
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