研究課題/領域番号 |
22KJ2596
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
大藪 葵 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | がんカヘキシア / サルコペニア / 筋萎縮 / FOXO / グローバルDNAメチル化 / 代謝応答 / アトロメタボライト / ポリアミン |
研究実績の概要 |
超高齢社会を迎えた我が国において、サルコペニアやカヘキシアの発症機序を正確に理解し、有効な介入戦略を確立することは早急に対策を講じるべき喫緊の課題である。本研究において研究代表者は、「①がんカヘキシアに付随した筋萎縮がどのような分子機序で発症するか?」「②サルコペニア発症の原因となる骨格筋変化とは?」「③がんなどに伴う筋萎縮時の代謝応答とは?」という3つの研究課題について、独自に確立したマウスモデルや培養細胞を用いてその解明に取り組んだ。 ①骨格筋特異的なFoxO1,3,4欠損マウス(FoxO-TKO)のがんカヘキシアモデルを作製し、がんカヘキシアにおける筋萎縮を説明する新規の分子機構としてFoxO-C/EBPδ軸を同定した。さらに、FoxO-TKOマウスではがんカヘキシアによる筋機能の低下が抑制されることを明らかにした。 また、②老化した骨格筋では、グローバルDNAメチル化が増加していたことから、グローバルDNAメチル化を増加させたエピゲノム改変マウスの解析を実施した。Dnmt3a過剰発現によるエピゲノム情報の喪失は、さまざまな骨格筋の加齢様変容を引き起こし、加齢と相まって骨格筋の慢性炎症を増強させ、加齢性筋萎縮を促進した。また、エピゲノム情報が破綻した骨格筋では、筋萎縮からの回復能が破綻していることを明らかにした。 さらに、③筋萎縮の生理学・遺伝学・病理学、および加齢モデルを比較解析することにより、筋萎縮時に変動する代謝物(アトロメタボライト:Atrophy+metabolite)を包括的に同定した。また、骨格筋ポリアミン合成不全が、がんや不活動、飢餓、老化などの筋萎縮に共通した特徴であることを明らかにした。さらに、FoxO-Odc1-プトレシン軸を新規に同定し、FoxOがポリアミン代謝を制御する重要な因子であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
がんカヘキシアに付随した筋機能の低下が、FoxOシグナルを介してどのように誘導されているかを説明しうる分子機構を明らかにすることができた。また、骨格筋老化の新規知見として、加齢したマウス骨格筋ではグローバルDNAメチル化が増加すること、さらには、DNAメチル化酵素(Dnmt3a)の過剰発現モデルを用いた解析から、グローバルDNAメチル化の増加が骨格筋を加齢様変容させることを見出すことができた。後者に関しては、得られたデータをまとめて論文投稿・リバイス実験中であり、順調に研究が進展している。がんカヘキシアに伴う筋萎縮の発症機序に関しても、概ね計画通りに研究が進展している。加えて、筋萎縮時の代謝応答の包括的な解析に関しては、当初の計画以上に重要な知見が得られた。これらの研究成果は積極的に学会・研究会等で発表し、日本農芸化学会関西支部 第525回講演会(優秀発表賞「支部長推薦」)、日本アミノ酸学会第17回学術大会(最優秀ポスター賞)などで受賞した。これらの業績により、2024年3月に京都府立大学学長表彰を受けた。以上より、当初の計画以上に研究が進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
がんカヘキシアによる筋機能の低下の仕組みに関しては、FOXO-TKOマウスの解析に加えて、FOXO1過剰発現マウスの解析から、病的な筋萎縮の発症分子機構を明らかにする。また、代謝応答の研究に関しては、筋量制御に重要なFOXOによって制御される代謝物を包括的に同定し、FOXOを介した筋萎縮の分子基盤の確立を目指す。また、FOXOによるポリアミン代謝制御の生理的意義の解明を目指す。
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