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2022 年度 実績報告書

ケニアのFGM廃絶運動におけるクロス・スケールなアクター間の動態的相互作用研究

研究課題

研究課題/領域番号 22J00238
配分区分補助金
研究機関大阪公立大学

研究代表者

林 愛美  大阪公立大学, 大学院現代システム科学研究科, 特別研究員(CPD) (80837633)

研究期間 (年度) 2022-04-22 – 2026-03-31
キーワード女性器切除 / FGM/C / マサイ / ケニア / 通過儀礼 / FGM廃絶運動 / NGO / 地域社会組織(CBO)
研究実績の概要

初年度は、感染症の影響が引き続き注視される中、ケニア共和国で長期のフィールド調査を行うことが叶わなかった。そのため、過去に収集したFGM廃絶運動に関するデータを再度分析し、その成果を発表した。日本国際開発学会第33回全国大会では若手の政治学者、人類学者の2名と共に前夜祭にてパネルセッションを企画し、ジェンダー人類学的視点から口頭発表「ケニアの地域社会組織によるFGM廃絶運動と相互扶助的ローカル社会の相克」を行った。また、ガーナのFGM廃絶運動を人類学的に分析した最新の研究The Twilight of Cuttingの書評を『国際開発研究』に発表した。
さらに、Nakamura他が編集したアフリカ、中東、東南アジア、オーストラリアの研究者らによる国際共著書Female Genital Mutilation/Cuttingでは英文研究ノート“Research Note on a Grassroots Movement to Eradicate Female Genital Mutilation/Cutting Among Kenyan Maasai”を発表した。
2023年からはフランス国立科学研究センター・政治人類学研究室に客員博士研究員として3か月間滞在し、アフリカ研究者らと人新世の国際共同研究を行った。フランスではFGMの変化を廃絶運動だけでなく、ケニア独立以降のマサイの土地利用と生業変化の中で分析し直し“Living in the Nation: The Modification of Livelihood, Gender, and Female Rites of Passage in Maa Pastoral Society, Kenya.”として口頭で報告した。また、イギリスにも2週間渡航し植民地期ケニアのマサイに関する民族誌を閲覧・収集した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

初年度はケニアでのフィールドワークを行えなかったが、これまで収集したデータを再分析し、口頭および紙面での成果発表や国際共同研究を精力的に行った。
国際共著書(Nakamura et al 2023)に発表した英文研究ノートでは、ケニアのマサイランドで地域社会組織(Community-based Organization: CBO)が主導するFGM廃絶運動において、地元住民が運動を女子教育の拡充など別の機会と捉えて戦略的に利用している面があると報告した。また、国際開発学会では、ローカルなFGM廃絶運動において、マサイの活動家とプロジェクト対象者(マサイの地元住民)の間に一定の権力関係が存在し、とりわけ活動家は運動において言語を使い分けることによって空間をコントロールしている可能性があるという予備的考察を報告した。この点については、次年度のフィールドワークにてさらなるデータを収集して詳細を明らかにしたい。以上の研究を通じて、ローカルなFGM廃絶運動における2つの階層(地元住民とCBO)の行動についての仮説が構築できたといえる。次年度は、ケニアで反FGM委員会(国家レベルのアクター)と国際NGO(国際レベルのアクター)の調査を進めるとともに前述の仮説を検証し、FGM廃絶に関わるアクター間の関係性を明らかにする。
また、フランスで人新世の国際共同研究を行ったことにより、FGMの変化について考える際、ジェンダー関係やFGM廃絶運動といった要素だけでなく、生業、土地利用、文化といった変化が自然との関係においてどのように変わっていき、それがどのようにFGMやその廃絶運動に影響を与えているのかという視点を持つことの必要性を学んだ。
以上、初年度はFGM廃絶運動におけるマサイの地元住民とCBOという2つのアクターの性質について一定の仮説を立てることができ、今後の調査課題を十分に得た。

今後の研究の推進方策

次年度はケニアに長期滞在し、マサイの地元CBOとそのドナーである国際NGO、そしてケニア政府の反FGM委員会との関係についての調査を行う予定である。首都ナイロビでは国際NGOのオフィスを訪問し、資料を収集・閲覧するとともに、職員への聞き取り調査を行う。同じく首都にある反FGM委員会のオフィスでは公的文書を閲覧・収集するとともに職員にインタビューを行って委員会が草の根レベルのCBOにどのような役割を期待し、どのような経済的支援や政治的命令を行っているのかについて調査する。さらに、ケニア西部(フィールド)にあるマサイのCBOを訪問し、政府や国際NGOが実際には資金面やイデオロギー面でCBOのスタッフとどのような関りを有しているのかを調査する。
過去の調査から、マサイのCBOが地元の伝統的チーフや教師、牧師など地域で指導的立場にある人びとにFGM廃絶のための協力を要請していることがわかった。したがって、2024年度には、CBOと地元住民との関係について明らかにするべく、CBOの活動するケニア西部の遠隔地4拠点において活動協力者に対する参与観察と質問票を用いたインタビュー調査を2か月程度かけて行う。また、これまで調査を行ってきたマサイの集落にも3か月程度滞在し、住民がFGM廃絶運動にどのような意見を抱いており、どのような関りを持っているのかを調査する。さらに、1か月をかけてCBOのFGM廃絶プログラムに参与しながら活動家と地元住民の間でどのような政治的、経済的、空間的、または言語的な交渉が行われているのかを観察する。
2025年度以降はこれまで収集したデータを整理、分析し、FGM廃絶に関与するアクター間の動態的相互作用を明らかにする。必要な場合には、ケニアでフォローアップ調査を行う。本研究では各年度に国内外の学術大会にて進捗状況を発表するとともに、論文を投稿して課題を深める。

備考

リサーチマップ https://researchmap.jp/Hayashi.M/

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) 学会発表 (4件) 図書 (1件) 備考 (3件)

  • [国際共同研究] フランス国立科学研究センター/社会科学高等研究院・政治人類学研究室(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      フランス国立科学研究センター/社会科学高等研究院・政治人類学研究室
  • [雑誌論文] 書評 Hodzic, Saida: The Twilight of Cutting: African Activism and Life After NGOs.2022

    • 著者名/発表者名
      林愛美
    • 雑誌名

      『国際開発研究』

      巻: 31巻2号 ページ: 77-83

  • [学会発表] フランスにおけるデヴィッド・グレーバーの思想―政治人類学と社会運動「ジレ・ジョーヌ<黄色いベスト>運動」への影響2023

    • 著者名/発表者名
      林愛美
    • 学会等名
      研究会:負債の動態に関する比較民族誌的研究(2) 2022年度第3回例会
  • [学会発表] Living in the Nation: The Modification of Livelihood, Gender, and Female Rites of Passage in Maa Pastoral Society, Kenya.2023

    • 著者名/発表者名
      HAYASHI Manami
    • 学会等名
      講義: Master course seminar "Atelier des anthropo-scenes" of des hautes etudes en sciences sociales (EHESS) held by Political Anthropology Laboratory (LAP)
  • [学会発表] The Reception of David Graeber in Japanese Anthropology: Economic Anthropologists Rethinking ‘Human Economy’ by “Debt: The First 5000 Years.”2023

    • 著者名/発表者名
      HAYASHI Manami
    • 学会等名
      研究会: Seminaire interne du Laboratoire d'Anthropologie Politique (LAP)
  • [学会発表] ケニアの地域社会組織によるFGM廃絶運動と相互扶助的ローカル社会の相克2022

    • 著者名/発表者名
      林愛美
    • 学会等名
      日本国際開発学会第33回全国大会・前夜祭「現代アフリカの開発における課題―危機下の市民生活から」
  • [図書] Female Genital Mutilation/Cutting Global Zero Tolerance Policy and Diverse Responses from African and Asian Local Communities2023

    • 著者名/発表者名
      Kyoko Nakamura, Kaori Miyachi, Yukio Miyawaki, Makiko Toda
    • 総ページ数
      193
    • 出版者
      Springer, Singapore
    • ISBN
      978-981-19-6723-8
  • [備考] Research Note on a Grassroots Movement…

    • URL

      https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-981-19-6723-8_7

  • [備考] AA研共同利用・共同研究課題 負債の動態に関する比較民族誌的研究(2)

    • URL

      http://www.aa.tufs.ac.jp/ja/projects/jrp/jrp278

  • [備考] 書評 Hodzic, Saida : The Twilight of Cutting

    • URL

      https://cir.nii.ac.jp/crid/1520294807639131392

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公開日: 2023-12-25  

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