研究実績の概要 |
ガンマ線バースト(GRB)の残光とは、数日から数年にわたり、電波からガンマ線までの多波長の電磁波が観測される現象である。残光の標準モデルは、中心エンジンから放出された相対論的(ローレンツ因子は 100 以上)なジェットが放出され、周辺媒質との衝突により生じる衝撃波で加速された電子からのシンクロトロン放射と考えられている。残光の標準モデルでは、ジェットの先端の物理量は一様であると仮定されている(以下、「一様モデル」)。 近年になってから、チェレンコフ望遠鏡 MAGIC, H.E.S.S., LHAASO等によって、GRBからの超高エネルギーガンマ線(TeV ガンマ線) 放射が伴うイベントが5つ(GRB 180720B, 190114C, 190829A, 201216C, 221009A)報告された。しかし、TeV ガンマ線残光放射は、シンクロトロン放射では説明が難しく、高エネルギー電子が低エネルギーの光子を叩き上げる逆コンプトン散乱が有力視されているが、 その放射機構は未解明である。 本年度では、ジェットのローレンツ因子と開き角が異なる2つの一様モデルの重ね合わせである二成分ジェットモデルを用いて、TeV ガンマ線放射を伴うイベントの観測結果を説明可能か調べた。その結果、これまでに報告されたすべてのイベントの多波長残光を説明可能であることを示した。TeV ガンマ線放射については、高エネルギー電子の放つシンクロトロン光子を同位置・同種の電子が逆コンプトン散乱を行う過程のシンクロトロン自己コンプトンのみで、説明可能であることを明らかにした。さらに、TeV ガンマ線放射のためには、ローレンツ因子が小さいジェットの存在が重要であることを示した。
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