本研究は、近世の国家・社会において朝廷がいかに存立しえたかを、朝廷下級役人たる口向役人を分析対象とし、①朝廷の運営構造、②朝幕関係(幕府による朝廷統制)、③朝廷と地域社会(京都とその近郊)との関係、の3点に関して、実務レベルから新知見を加えることを課題としている。最終年度にあたる本年度は、引き続き③に重点を置いて研究を進めた。 まず、前年度の成果をもとに、論文「近世中期の朝廷における上賀茂社家―口向役人としての側面を中心に―」(『日本史攷究』47号、2023年11月)を発表した。口向役人の担い手として社家が一定数を占め、そのすべてが上賀茂社の社家であったこと、および彼らの存在形態を明らかにし、近世京都の社家と朝廷との関係の新側面を提示した。 次に、関係史料の調査・収集を実施した。調査先は、京都市歴史資料館、京都府立京都学・歴彩館、京都大学総合博物館、京都大学文学研究科図書館の各所である。これらにおいて、口向役人の手による記録類や、口向役人を輩出した家の史料群などを新たに発見し、諸史料の分析に着手した。 とりわけ京都市歴史資料館に所蔵されている各種写真帳(複製史料)からは、これまで検討してきた都市民のみならず、禁裏領民や被差別民が口向役人と取り結んだ諸関係を見出すことができた。この点を主題とする研究報告を、部落問題研究所が主催した、第61回部落問題研究者全国集会 歴史Ⅰ分科会〈近世身分研究の新展開〉において行った。本報告では、近世朝廷が、京都とその近郊を中心としつつも、遠隔地をも含む周辺社会を地域的基盤として存立しえていたことを明らかにした。報告内容は、論文「近世朝廷の下級役人と周辺社会―朝廷の地域的基盤をめぐる一考察―」(『部落問題研究』249号)として発表予定である。
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