研究課題/領域番号 |
22KJ2647
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
上田 修裕 学習院大学, 理学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | Mg / 初期地球 / フェリハイドライト / 同位体 / 水-岩石反応 |
研究実績の概要 |
本研究での1つ目では、太古代の熱水環境を実験室で再現し、当時の海水や表層環境復元のため海底熱水環境で噴出する熱水の性質(特にFe及びMg)を理解することを目的としている。熱水は水岩石反応により生成されるため、その海水と岩石の組成が熱水の性質を主に支配している。地質記録から、当時の海水のFe, Si, CO2, Cl等の濃度は現在海水より高いことが知られているため、熱水の性質が現在のそれとは異なったことが想定される。そこで、高温高圧実験装置を使用して、天然玄武岩と太古代を想定したFeとClに富む人工海水を数か月間にわたり反応させた。その結果、その熱水は報告のある現在の熱水の性質(pHやFe、Mg)とあまり変わらない結果であった。つまり、太古代の高濃度ClとFe濃度は、熱水中のFeやMg濃度に際立った影響を示さないことが明らかになった。今後としては、現在の熱水のMgとは異なる挙動が想定できるCO2に富んだ条件での実験を行う予定である。 2つ目は、太古代の元素循環を理解するために、太古代に多く見られる縞状鉄鋼床のような堆積岩の使用を検討している。ここでは、海洋で堆積岩が形成する際、海洋中の元素を吸着することを想定してる。その吸着時の同位体分別の係数(特にMg)を決定することは、当時の元素循環の解明の糸口となると考えている。本研究では、縞状鉄鋼床の前駆体と考えられるフェリハイドライトを対象鉱物とした。その鉱物を合成し、特定の元素を添加した溶液と反応させる元素吸着実験を実施した。今年度は、MgのみならずSrも目的元素とし、それぞれの元素における鉱物吸着のpH依存性を確認した。その後、同位体分別係数の算出のための実験条件を確定させた。続いて、実験で得られた鉱物と溶液の高精度同位体比分析に向けて、対象元素以外の元素(Feなど)を取り除くため、前処理実験を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、太古代海水での高温高圧条件下での水-岩石反応の実施に加えて、合成フェリハイドライトを用いたMgやSrの固液分配実験から、固相・液相のMg同位体比測定を行うことを主な目標としてきた。しかし、フェリハイドライトの合成及び、それを用いたMg、Srの固液分配実験を実施できたものの、当初予定していたMg等の同位体比測定を行うことができなかった。したがって、進歩状況はやや遅れている、とした。
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今後の研究の推進方策 |
前年度のMgに加え、今年度は合成フェリハイドライトへのSrの吸着率とそのpH依存性を調べた。現段階ではCaを対象とした実験も進行中である。これらの同じ第二族元素同士で比較することで、天然の試料からより多くの情報を得ることが可能になると考えている。また、近年MgやCa等の比較的軽い元素の高精度同位体比計測が可能な装置(MC-ICP-MS)が国内でも導入されてきており、今後これらの軽い元素の高精度同位体比データを用いた議論が活発になることが予想される。したがって、本研究でもその高精度の分析に向けて、準備を進めていく予定である。今年度で同位体比測定のための吸着実験条件を確定できたため、今後はその後の処理法(測定元素の単離など)の検討と同位体比計測を実施する。その後、鉱物吸着時の元素の同位体分別係数を決定、さらには天然の縞状鉄鋼床などの堆積岩から海水の同位体の情報の推定を行っていく。また、上記の実験はMgと同じ第二族元素であるCa, Srについても同様に実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の進捗が遅れており、予定していた現場実験および学会参加を延期した。繰越分は今後の現場実験の必要物品および学会参加費等に使用する予定である。
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