昨年度の結果から,アバタを増やすほどアバタ全体に対する所有感が低下することが示唆された。そこで本年度は,身体認知において身体所有感と並んで重要な感覚である行為主体感に着目し,複数身体における行為主体感を調べることで,複数身体認知メカニズムを明らかにすることを目指した。具体的には,複数のアバタに動きを波のように伝搬させることで,本来行為主体感の生起しない遅延の大きい身体においても,行為主体感が生起するか調べた。実験ではVR空間にアバタを5体横に並べ,最も左側のアバタが実験参加者の動きに同期して動いた。そのアバタより右側のアバタは徐々に遅延が増すように設定し,左側のアバタの動きが波のように伝搬するように設定した。加えて,左端と右端のアバタのみ提示する動きの補完が行われない条件があった。波のような運動伝搬で動きを補完することで,補完がない場合よりも行為主体感が強くなると予想した。参加者の動きはモーションキャプチャカメラによってトラッキングし,ヘッドマウントディスプレイを通して映像を提示した。実験では最も右側の遅延して動くアバタを使ってターゲットを触る課題を行い,参加者はその時の行為主体感及び主観的な体感時間を評価した。加えて課題の反応時間(RT)を記録し,実験の最後にはインタビューを実施した。その結果,主観的な行為主体感,体感時間,RTにおいて条件間に統計的な有意差は見られなかった。これは,観察者がターゲットを触る遅延のある身体のみを見て行為主体感を評価していることを示唆する。今後は,参加者が複数のアバタ全体を見るような課題を設定する必要がある。インタビューでは,アバタによる運動の補完がない場合のほうが,自分で触っている感覚(行為主体感)が高いという報告もあった。運動の補完が観察者によってはノイズのように感じている可能性があるため,さらなる調査が必要である。
|