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2021 年度 実績報告書

らせん渦構造効果に着目した汎用乱流モデル開発と制御への展開

研究課題

研究課題/領域番号 21J00580
配分区分補助金
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

稲垣 和寛  慶應義塾大学, 自然科学研究教育センター, 特別研究員(PD)

研究期間 (年度) 2021-04-28 – 2024-03-31
キーワード乱流 / 乱流モデリング / ヘリシティ / サブグリッドスケールモデル
研究実績の概要

本研究ではらせん渦構造に着目し,従来モデルよりも汎用的な乱流モデルの開発を試みる.本年度は基礎的な壁面せん断乱流であるチャネル乱流の直接数値計算のデータベース構築を行った.また,本科研費の申請準備段階で行っていた研究である,らせん渦運動を伴った最も基礎的な乱流場である一様等方鏡映非対称乱流の相似則に関する理論解析を行った.本研究により,乱流の小スケールにおいてはらせん渦運動の時間スケールが,らせんを伴わない渦の時間スケールと相違ないことが示唆された.この成果は国際学会で発表した他,査読論文が発表されている.さらに,同じく準備段階からの継続研究として,既に提案されている汎用的な乱流モデルの性能とその物理的起源に関する考察を行った.この際に,前述の直接数値計算のデータベースを用いた解析との比較検討を行った.特に,対象のモデルにおいて用いられるサブグリッドスケール(SGS)乱流エネルギーの輸送に注視した解析を行った.その結果,モデルにおいてはSGS乱流エネルギーの輸送モデル自体に物理的な優位性はなく,輸送方程式を用いない簡便なモデルへの縮約が可能であることが示された.この研究成果に関しては査読論文が受理されている.
一様等方鏡映非対称乱流の理論解析結果は,らせん渦構造を取り入れた乱流モデルの理論的導出において基盤となる重要な成果である.またらせん運動効果は工学分野のみならず,地球流体科学や地磁気や太陽地場における磁気ダイナモ効果の予測においても重要であり,学際的な研究成果にも繋がる成果である.
既に提案されている汎用乱流モデルの物理的考察に関する研究では,汎用的な乱流モデルに求められる物理的な効果を抽出することに成功している.したがって,この成果は本申請課題であるらせん渦構造効果を伴う乱流モデルのみならず,近年急速に発展するデータ駆動型の乱流モデル開発にも示唆を与える成果と言える.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

当初の研究計画では,チャネル乱流を構成する最小単位であるミニマル流の数値計算を実施し,解析を行う予定であった.しかしながら,本年度は前年度から継続して行っている研究課題の成果発表に多くの時間を費やしたため,計画通りの研究遂行はできなかった.また異動に伴って研究環境の構築にも時間を要したため,想定よりも遅れが生じたことが考えられる.一方で本年度の研究成果としてミニマル領域でないチャネル乱流の直接数値計算のデータベース構築を達成している.さらに,統計的なアプローチによる渦運動効果の検証に必要な,波数空間における乱流エネルギーや乱流応力の収支解析も実施済みである.このとき,未発表の成果ではあるが,乱流モデルを用いた計算を想定してフィルター操作を施した場合,大スケールの渦運動がサブグリッドスケール(SGS)応力によって誘起されていることを示唆する結果を得ている.この効果は,渦粘性モデルと呼ばれる従来のモデルでは全く再現することができないものであり,従来型の乱流モデルの欠点を物理的に明快に指摘するものである.したがって,渦運動を誘起するSGS応力のモデル表現を提案することで,本申請課題の目的である物理的に正確な汎用乱流モデルの構築の基盤を構築することができる.
このような現状から,研究計画自体はやや遅れているものの,研究の方針や解析のための準備は十分に進んでいる.したがって次度以降の研究活動を円滑に進める準備は進んでおり,全体の研究計画自体に大きな影響は及ぼさないと考えられる.

今後の研究の推進方策

今後の研究では,既に構築したチャネル乱流の直接数値計算データベースを用いたデータ解析を行う.解析において着目すべき物理量に関しては既に検討済みである.サブグリッドスケール(SGS)乱流モデリングとの関係性を詳細に考察するために,速度場に施すフィルター波長に関してパラメータ調査を行う.この調査により,新たな乱流モデルの物理的必要性を明確にすることができる.さらには,基本モデルである渦粘性モデルの適用範囲に関して,従来研究では指摘されてこなかった物理的な考察が可能となり,これまでの乱流モデルを用いた計算の妥当性に関して物理的根拠を与えることが期待される.本研究の成果は,秋季に国内学会での発表を予定しており,年度内に論文を執筆,投稿する予定である.
また前年度計画していたミニマルチャネル乱流を用いた計算に代わり,解析的な表現が可能なWaleffe流れないしCouette流れの低次元モデルによる検証を検討している.低次元モデルでは,いたずらにモード数を減らすだけでは乱流が維持されないことがよく知られている.一方,削減したモードの効果を乱流モデルとして適切に取り入れることで,低次元ながらも乱流構造を維持するモデルが構築できると期待できる.方針としては,乱流が維持される程度には多数のモードを含んだ流れ場を用意し,そこにフィルター操作を施すことでSGS乱流応力を求める.モード分解が明快であるWaleffe流れでは,SGS乱流応力の解析的な表現が導出できることが大きなメリットであり,らせん渦構造との関係も明確に把握することができる.ここで導出されたモデルと前述のチャネル乱流の数値計算結果を比較することで渦運動効果への寄与を検証し,モデルの物理的役割をより明確にする.本研究に関しては,年度末の国内学会での発表を目指し,論文の執筆も行う予定である.

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] Transport and modeling of subgrid-scale turbulent energy in channel flows2022

    • 著者名/発表者名
      Kazuhiro Inagaki and Hiromichi Kobayashi
    • 雑誌名

      AIP Advances

      巻: 12 ページ: -

    • DOI

      10.1063/5.0083398

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Scale-similar structures of homogeneous isotropic non-mirror-symmetric turbulence based on the Lagrangian closure theory2021

    • 著者名/発表者名
      Kazuhiro Inagaki
    • 雑誌名

      Journal of Fluid Mechanics

      巻: 926 ページ: A14

    • DOI

      10.1017/jfm.2021.708

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Scale-similar analysis on maximally helical homogeneous turbulence2021

    • 著者名/発表者名
      Kazuhiro Inagaki
    • 学会等名
      The 25th International Congress of Theoretical and Applied Mechanics
    • 国際学会
  • [学会発表] チャネル乱流におけるSGS乱流エネルギーのモデリングに関する検討2021

    • 著者名/発表者名
      稲垣和寛・小林宏充
    • 学会等名
      日本流体力学会年会2021

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公開日: 2022-12-28   更新日: 2023-08-01  

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