研究課題/領域番号 |
21J20961
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
比企 佑介 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ネムリユスリカ / 乾燥耐性 / 遺伝子制御ネットワーク / ネットワーク推定 / 深層学習 |
研究実績の概要 |
昆虫の一種であるネムリユスリカの幼虫は極限的な乾燥耐性を持つ。これまでにネムリユスリカの乾燥耐性に重要な遺伝子群が同定されているが、それらがどのように制御されているのかは未知である。 そこで本研究課題では、in vivoで取得された時系列遺伝子発現量データから遺伝子制御ネットワークを正確に推定可能なアルゴリズムを開発し、それを用いてネムリユスリカの乾燥耐性に関与する遺伝子制御ネットワークの同定および解析を行うことでネムリユスリカの乾燥耐性機構を明らかにすることを目的としている。 これまでに構築したアルゴリズムは、少数遺伝子から構成されるin vivoデータに対して既存手法の精度を上回った一方で、多数遺伝子から構成されるin vivoデータでは既存手法を下回るという課題が残っていた。そこで令和4年度は、遺伝子数の増大に対する精度低下の軽減に向けて、多変量回帰における変数選択に有効な正則化の導入や回帰学習済みモデルの後処理の改良、モデルの最適なハイパーパラメータ探索を行った後、100を超える遺伝子から構成されるin vivoデータを用いた精度評価を行った。その結果、上記のいずれの改良も精度向上に繋がったものの、既存手法を超えなかった。一方で、上記の改良を行ったアルゴリズムを用い、乾燥時のネムリユスリカ幼虫から取得された時系列遺伝子発現量を入力として遺伝子制御ネットワークを推定したところ、ハブとして推定された転写因子が、多くの遺伝子で共通して示す特徴的な発現変動をよく説明していることが確認された。また、その転写因子はネムリユスリカが固有に持つ遺伝子であり、乾燥耐性に重要な因子である可能性がある。これは既存手法を用いた推定結果では捉えることができなかったものであり、本アルゴリズムはネムリユスリカの乾燥耐性に重要な因子を部分的に推定することができている可能性があることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、これまでに構築した遺伝子制御ネットワーク推定アルゴリズムの改良を幅広く行うと同時に、現状のアルゴリズムで実際にネムリユスリカの乾燥耐性に関与する遺伝子制御ネットワークを推定した場合にどのような解釈が得られるかを検証した。 改良した遺伝子制御ネットワーク推定アルゴリズムは多数の遺伝子から構成されるin vivoデータセットでは現状既存手法の精度を上回ることができていないものの、改良により精度が着実に向上している点および乾燥時にネムリユスリカの多くの遺伝子で共通して示す特徴的な発現変動をよく説明できたという点で、本アルゴリズムでネムリユスリカの乾燥耐性を明らかにすることができる可能性を示すことができたため、おおむね順調に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況を踏まえて令和5年度は、令和4年度に開発したアルゴリズムの改良およびそれを用いた解析を目的として以下のような課題に取り組む。 課題1. これまでに開発したアルゴリズムの精度向上に向けた改良 現状で少数遺伝子での推定では既存手法の精度を上回ることができている点を利用した改良を行う。具体的には、多数遺伝子から構成されるデータセットを用いた推定を行う際、ランダムに少数遺伝子ごとのサブセットに分けたデータセットを生成し、それらを推定した結果を統合することで、多数遺伝子から構成される遺伝子制御ネットワークをin vivoデータからより高精度に推定することを目指す。 課題2. 改良したアルゴリズムを用いたネムリユスリカ幼虫の遺伝子制御ネットワークの推定および解析 課題1.で改良した推定アルゴリズムを用いてネムリユスリカの遺伝子制御ネットワークを推定し、特徴的な発現変動をよく説明する制御因子やその下流に位置する制御構造を解析的に同定する。また、その構造に基づく数理モデルの構築を通して特徴的な発現変動を説明するために必要十分な制御パスウェイを探り、その実験的な同定を目指す。
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