本研究は,塗装された金属物体の劣化表現を目的とし,劣化度に応じたウェザリングが施された仮想的なオブジェクトを配置するAR(拡張現実)システムの実現を目標とする.初年度は塗膜の変形を再現するため,固体のシミュレーション手法を調査した,次に2年目はシミュレーションの調査結果を踏まえて位置ベースの変形手法を採用し,塗膜の湾曲へと適用した.また,破壊力学的観点から塗膜の断裂の発生条件を設定することで,長く伸びるような亀裂の生成を可能にした.さらに,破壊の逆現象が生じる条件と発生時の処理を定義することで,シミュレーションの逆行を可能にした.そして,3年目にあたる2023年度は,ビジュアルシミュレーションの写実性,監督可能性の向上に取り組んだ.断裂発生条件をさらに改良することで,様々な形状の対象に対して同様の質感を与えるようにするとともに,制御パラメタの導入によって様々なパターンの塗膜剥離に対応できるようになった.また,シミュレーションの逆行を,破壊以外の要素である湾曲と汚損にも適用し,本手法におけるすべての劣化要因に対して疑似的な時間操作を可能にした.これまでの研究成果を国際会議Computer Graphics International 2023にて発表し,国際学術誌The Visual Computerに掲載された.さらに,国内シンポジウムVisual Computing 2023では招待講演を行った.また,前年度にVisual Computing 2022で発表した研究成果に対して,2023年度IPSJ山下記念研究賞を受賞した.
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