研究課題/領域番号 |
21J21856
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田渕 舜也 慶應義塾大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | 政治思想 / 新カント学派 / 南原繁 / 政治哲学 / 田辺元 / 社会契約論 / 価値哲学 / 政治学 |
研究実績の概要 |
令和3年度は南原繁と田辺元との関係性と、福田歓一の社会契約説研究の成立過程の解明について研究した。 南原繁研究会第10回夏期研究発表会での発表「「政治哲学」と「絶対弁証法」:当為と歴史をめぐって」(2021年8月28日)において、太平洋戦争にたいして南原と田辺が対照的な態度を取るようになった理由を思想的・哲学的な観点から明らかにした。南原の政治哲学が新カント学派の価値哲学に基礎を置いていること、田辺が絶対無を基礎に置いていることを示し、南原が価値哲学に則って当為を歴史からある程度離れてアプリオリに構成することができた一方で、田辺は絶対無という哲学概念によっては当為を示すことができず、歴史から当為を構成せざるを得なかったことが、南原の太平洋戦争への徹底的な否定的態度と田辺の婉曲的な肯定的態度を帰結したことが分かった。 近代日本における新カント派受容の歴史と意義~社会科学との交渉を中心に~(課題番号20H01196)第五回研究会での発表「『近代政治原理成立史序説』の誕生 」(2022年3月14日)において、福田の社会契約説研究は南原とアイザイア・バーリンから影響を受けていることを示した。福田は価値哲学の観点から書かれた南原の『国家と宗教』から時代に抗する政治哲学の重要性を認識したが、大日本帝国の瓦解と日本国憲法の発布という時代状況のなかで、南原とは異なった形の政治哲学を積極的に打ち出すことはできないでいた。そうした中で福田はオックスフォードへの留学によって当時一世を風靡していた論理実証主義に触れると共に、それに反対する政治思想を展開していたバーリンから積極的な政治哲学の可能性を見て取った。それは歴史から現在の政治状況に適合する原理を取り出すという歴史主義的な政治哲学であり、まさしく日本の政治状況に適合する原理として社会契約説が現代の政治哲学として彫琢されたことが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度はハインリッヒ・リッカートやエミール・ラスクの政治思想を明らかにする予定だったが、当初の研究計画を変更して、令和4年度に行うはずであった南原と田辺元との関係性について、そして令和5年度に同じく行うはずであった南原と福田の関係性についての研究が先行した。 リッカートと南原との政治思想・哲学の異同を明らかにした論文を『日本カント研究』に投稿したものの、形式的不備により掲載には至らなかったため、その代わりに本来は続く二年度に行うべきであった田辺と福田についての研究を先行させた。しかし、両者とも論文にまとめるにはいくつか欠陥が依然として残っている。 田辺と南原については、基本的な輪郭は描けているが、未だ比較すべき点が残っている。特に両者ともラスクに影響を受けていると考えられるが、その点について十分な検討を行うことができなかった。 福田については、彼の社会契約説研究とその時々の時論的発言や市民社会論との関係性を包括的に検討できなかった。 一定程度の研究成果は得られたものの、それらを論文といった形にまとめることができなかった。今後の課題としたい。
|
今後の研究の推進方策 |
今後続く二年度では令和3年度に進めた研究成果を論文の形にしてまとめたい。具体的には、三点の業績を続く二年度で論文にしたい。一つは、リッカートの政治性についてより詳しく掘り下げたもの、二つは、南原と田辺の関係性をラスクとの関係性も含めて包括的に描いたもの、三つは、福田の社会契約説研究と彼の時論的発言と市民社会論との関係性を描いたものである。 令和3年度に予定していた研究を令和4年に一部スライドさせることで令和3年度における研究進度の遅れに対処したい。 一つ目については、特にリッカートの未刊行講義原稿から、彼が展開しようとしていた社会倫理に焦点をあてて論文をまとめたい。純哲学的な学問論を中心に展開してきたリッカートの価値哲学が、世界恐慌の混乱を背景に徐々に社会倫理や政治学として組み上げられて行く様を描くつもりだ。二つ目は、ラスクの論理学がヘーゲルの弁証法に下した判断が南原と田辺にどのように受けとめられたのかを軸に議論を展開したい。三つ目は、福田の社会契約説の焦点が当初は国民国家形成の論理であったのが、徐々に国民国家よりも比較的小規模で自発的な社会団体の形成へと議論が移り変わっていった様を明らかにする。
|