研究課題/領域番号 |
22J00007
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
淺野 良成 慶應義塾大学, 法学部(三田), 特別研究員(PD) (30973581)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 外交と世論 / 政治行動 / 政治コミュニケーション / 議員行動 / 地方政治 / 世論調査 / サーベイ実験 |
研究実績の概要 |
第一に、2003年衆院選後から2017年衆院選前までを対象に、どのような属性の衆議院議員が外務委員会や安全保障委員会で活動しているかを検証した。この研究は、博士課程で取り組んでいたテーマの延長であるが、地方議会議員の行動を検証する本研究課題の土台にするべく、国会議員の行動について理論を整理しようとしたものである。分析の結果、(1) 2012年衆院選以降の自民党は、右派的な議員ほど外務委員会や安全保障委員会で活動していること、(2) 2014年衆院選以降の民主党(民進党)は対照的に、左派的な議員ほど同委員会で活動していることを確認した。この成果は、2022年度日本選挙学会で報告した。 第二に、北海道・東京都・大阪府・沖縄県に住む市民を対象に、外交・安全保障観に関するインターネット調査を実施した。この調査では、沖縄県における中国公船の脅威を伝えるグループ、北海道におけるロシア空軍の脅威を伝えるグループ、何も情報を与えないグループのいずれかに無作為に割り当てるサーベイ実験を組み込んだ。分析の結果、(1) 沖縄県でのみ、地域愛の弱い人ほど右派的な対外政策に賛同すること、(2) 中国公船の脅威を伝えたとき、沖縄県でのみ政治態度が右傾化したこと、(3) ロシア空軍の脅威を伝えることは、全地域において市民の政治態度に影響しないことを確認した。 第三に、本研究課題で重要な役割を予定しているインターネット調査の妥当性を、無作為抽出法に基づく郵送調査との比較を通じて検証した。分析の結果、(1) 回答の分布や平均値はインターネット調査と無作為抽出調査で異なるものの、(2) 変数間の相関関係は調査手法に依らず頑健に再現されることを確認した。この成果は、日本選挙学会が編集する『選挙研究』に査読付き論文として掲載される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、地方政治における安全保障問題の浮上を(1)有権者レベルと政治家レベル、(2)地方レベルと国政レベルの2側面から捉えることを目指している。2022年度は、有権者レベルの動向を大規模なインターネット調査で捉えることに成功し、博士課程から取り組んでいた国政レベルの議員行動の検証にも目処を立てた。また、インターネット調査を使って地域別世論をモデル化することを目指す本研究課題においては、インターネット調査の妥当性を検証しておく必要があった。その意味で、インターネット調査と無作為抽出調査を比較し、調査手法に依らず変数間の相関関係が一致することを確認できた意義が非常に大きい。研究課題の土台を初年度に固められたことから、概ね順調な進捗状況であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には、統一地方選挙の実施が予定されている。そこで、統一地方選挙後にインターネット調査会社を通じた世論調査を実施する。調査は選挙が実施される北海道と大阪府の住民を対象に行い、投票先や選挙で重視した政策分野、外交・安保分野を含む争点態度などを質問する。また、地方議会の議事録を使って地方議員が外交・安保トピックに言及する頻度を測り、統一地方選挙における再選率や有効得票率との相関関係を検討する。更に、2023年5月19日にG7広島サミットの開催も計画されており、その際には各国首脳が平和記念資料館に訪問する予定である。そこで、広島県・沖縄県・東京都・大阪府の4地域を対象に、核兵器利用に対する拒否感が市民の間でどのくらい強靭であるかを調査する。 2024年度には、47都道府県議会を対象に、領土問題や憲法改正、集団的自衛権の行使容認に関わる意見書や決議が提出・採択された要因を検証する。知事の党派や会派総数、自民党議席率、任期満了までの日数などを説明変数に置き、議会ごとの対応の違いを説明したい。また、2023年度までに得た知見を踏まえて、どのような地域の地方選挙で外交・安保中心の投票行動が成立するかをウェブ実験で検証する。具体的には、仮想の候補者群を提示し、外交・安保分野を含む争点態度、所属政党、当選回数、選挙区定数などをランダムに割り当てる実験を行う。更に、2024年6月投開票予定の沖縄県議会選挙に合わせてインターネット調査も実施する。 なお、本事業期間中に衆議院が解散された場合には、衆院選の前後に追加のインターネット調査を行う可能性がある。衆院選行われた場合には、地方選と衆院選との間で有権者の投票行動に違いがないかに踏み込んだ研究を行っていく。
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