研究課題/領域番号 |
22KJ2681
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
淺野 良成 関西大学, 法学部, 助教
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | 外交と世論 / 政治行動 / 議員行動 / 地方政治 / 世論調査 / サーベイ実験 |
研究実績の概要 |
第一に、本研究課題で重要な役割を果たすことになるウェブ世論調査の妥当性について、無作為抽出法に基づく郵送調査との比較を通じて検証した。分析の結果、(1)回答の分布や平均値はウェブ調査と無作為抽出調査で異なるものの、(2)変数間の相関関係は調査手法に依らず頑健に再現されることが確認された。この成果は、日本選挙学会が編集する『選挙研究』の39巻1号にて査読を経て刊行された。 第二に、2012年衆院選から2019年参院選まで間に、外交・安全保障問題において右派的な主張が目立つようになった自民党がなぜ有権者に支持されたのかについて、これまでの研究成果を整理した。昨今の有権者の中には、(1)右派的な主張に賛同して外交・安全保障政策を重視しながら投票先を決める人、(2)憲法9条の改正や防衛力の強化は積極的に賛成していないが、領土問題に端を成す安全保障上の脅威への対処を理由に右派的な政党を許容する人、(3)中道的な立場であるゆえに、イデオロギー化した日本政治をただ傍観する人がいる。この主張を検証した学術書を『賛同・許容・傍観された自民党政治』(有斐閣)として出版した。 第三に、防衛力強化や治安維持に対する都道府県ごとの世論の違いを推定した。具体的には、2023年3月に実施した東大・朝日共同世論調査と2024年2月に行った独自ウェブ調査に対してマルチレベル事後層化モデル(MRP)を用いることで、都道府県ごとの世論を測った。一部の研究成果は、2023年8月に開催された全米政治学会で報告している。 第四に、NHKが2021年衆院選・2022年参院選・2023年統一地方選で回収した候補者アンケートの結果を収集・分析することで、国会議員と地方議員の政策選好の違いを測った。分析の結果、定数の大きい選挙区の地方議員ほど、衆議院議員とは異なる政策選好を持ちやすいことを確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、地方政治における安全保障問題の浮上を(1)有権者レベルと政治家レベル、(2)地方レベルと国政レベルの2側面から捉えることを目指している。もともと2023年度は、統一地方選挙後にインターネット調査会社を通じた世論調査を実施することを予定していた。しかし、所属大学の変更にともなって研究倫理審査に関わる手続き等も修正を余儀なくされたこと、研究員から助教へと職位が上がって新たな職務に対応する必要が生じたことが影響し、予定していた調査を準備できなくなった。そのため、有権者レベルの分析は当初の予定よりも遅れている。 ただし、2024年度に予定していた都道府県議会や地方議員に関する分析を前倒して行ったため、政治家レベルの分析は当初の予定よりも進んでいる。例えば、NHK候補者アンケートと東大・朝日共同政治家調査のデータを整理・結合することで、地方レベルと国政レベルで政治家の政策選好を比較できた。また、都道府県議会において議員が提出した意見書案を集め、どのような議員が憲法や安全保障に関して意見を表明しているのかを分析する準備も進めた。 結果として、2023年度に予定していた有権者レベルの分析と、2024年度に予定していた政治家レベルの分析のタイミングが入れ替わった形になっている。したがって、全体として見れば概ね順調に進んでいるものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、東京都知事選や沖縄県議会選が予定されている。そこで、2024年7月以降にインターネット調査会社を通じてウェブ世論調査を実施する。これは、2023年度の統一地方選の直後に調査を実施できなかった代わりであり、政治行動や選挙で重視した政策分野、外交・安保分野を含む争点態度などを質問する。 また、沖縄県議会選挙の立候補者に対してもNHKなどのマスメディアによってアンケートが実施された場合、2023年度までに実施された都道府県議会選挙の立候補者のアンケートと併せて分析できるように、データの収集を進める。さらに政治家レベルにおいては、都道府県議会議員が提出した意見書案のデータ化を進めて、どのような議員がイデオロギー的な争点を議会で取り上げているのかについて計量的に検証するための準備を進める。 なお、本事業期間中に衆議院が解散された場合には、衆院選の前後に追加のインターネット調査を行う可能性がある。衆院選行われた場合には、地方選と衆院選との間で有権者の投票行動に違いがないかに踏み込んだ研究を行っていく。 2024年度は本研究課題の最終年度にあたるため、3年間の研究成果を論文化した上で、国内外の学術雑誌への投稿も進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
もともと2023年度は、統一地方選挙後にインターネット調査会社を通じたウェブ世論調査を実施することを予定していた。しかし、所属大学の変更にともなって研究倫理審査に関わる手続き等も修正を余儀なくされたことや、研究員から助教へと職位が上がって新たな職務に対応する必要が生じたことが影響し、予定していたウェブ世論調査を準備できなかった。当該ウェブ世論調査は、2024年度に東京都知事選や沖縄県議会選が行われた後にまとめて実施したいと考えている。
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